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□純粋なキミについた嘘
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本日はエイプリルフール。
午前中は嘘をつき、午後にはそれを謝るらしい。
こんな馬鹿げた地球のイベントを奴が忘れるわけがないのだが、何となく俺も、この四月バカに参加したくなった。
クルルは、一度も嫉妬したことがない。
嫉妬する以前に、――もし例えば夏美と楽しげに会話をしていたとして――その事に傷付いて、それが当たり前かのように思い一切触れず、俺に知られないよう泣いたあと何事も無かったかのように接してくるのだ。
…本当は、そんな風に思って泣いてほしくない。
自分が一番であると自信を持ってほしいし、何よりもまず、俺を信じてほしいのだ。
そうならないのは、きっと多分、俺の愛し方に問題があるからだろう。
そんなわけで、一度クルルに嘘をつき、俺がどれだけ信用されているのか、どれだけ愛されていてどんな反応を見せるのか、試してみたくなったのだ。
二人きりのテントの中、クルルは相変わらずパソコンを弄り、俺はその小さな丸い背を見つめ、ゆっくり息を吐いたあとにその背に話しかけた。
「…なあクルル」
「ん?」
「…前に、お前が出掛けていた日があるだろう?その日に夏美と」
夏美、という単語を出した途端、クルルの手が固まり動かなくなる。
もはやこの時点で言いたくなくなるほど、クルルは不安げな顔で振り返った。
「……夏美と?」
「え、あ………その、……夏美と、出掛けたんだが」
「…………良かったっスね」
「!」
無理やり貼り付けたような、嫌味な笑み。
一瞬だけ歪んだようなその顔に、ぎくりとした。
「クルルっ」
「楽しかったかい、デートは」
「で、えと…!?」
「…安心しな、別に浮気したって怒りゃしねーから」
「なっ」
「黙ったままで良かったのによ、秘密にしてるの心苦しかったのか?アンタもバカ正直な奴だねェ」
違う、違うそうじゃないクルル。
俺はそういう意味で言ったんじゃない、これは嘘だ、真実なんて一つもないんだ。
今日はエイプリルフールで、だから嘘なんだと、…そう思われないくらい俺は、信用されていないというのか?
「クルルこれはっ」
「…そういう真っ直ぐなトコ、嫌いじゃねェよ」
弱々しい笑みだった。泣きそうな顔だった。
そんなクルルを見ていられず、慌てて抱き締める。
強く強く、離さないように。
背中に回る腕の力の無さに、俺まで泣きたくなる。
「…クルルっ」
「アンタが言うならしょうがねえ、…あの日は俺も、サブローとデートしててね」
「んなっ!?」
「ほれ、こんなプリクラ撮っちった」
身じろぎ見せてきたのは、正にクルルとサブローの写真のようなもの。たくさんあるそれは全て、楽しげに笑うものばかりで。
「なっ、なっ、な…っ」
「バッタリ会うことなくて良かったっスねェ」
「そうじゃないだろうっ!?」
「く?」
何故、何故クルルがサブローと、で、でえとなど!?
許さん、断じて許さんぞそんな事!!
「あっ」
ビリッと破き屑と化す写真。
驚いたクルルに、噛みつくようなキスをした。
クルルは俺のだと、クルルを笑わせるのは俺だけでいいのだと。
ありったけの想いを込めたキスをして、ゆっくり離す。
紅潮する頬と濡れた唇。
違った欲が顔を覗かせる前に、クルルの耳元で囁いた。
「…二度とサブローと二人で出掛けるな。俺が嫉妬しやすいのは貴様も知っているだろう?」
「……せん、ぱい」
「好きだクルル。誰にも渡したくない、愛しているんだ」
抱き締め、クルルの肩に顔を埋める。
クルルの心拍数が速い、それが心地良い。
「…先輩…だって、夏美と……」
「嘘に決まっているだろうが」
「!」
「エイプリルフールだ、それのための嘘なんだ。……お前が出掛けていた日はずっと、お前の事を待っていた」
「……!」
待って、帰った時には嬉しくてクルルを抱き締めた。
どこに居たのかなんて、聞いたりはしなかったけれど。
「…ギロロ先輩……」
「……クルル、好きだ」
ぎゅ、と背中に回る腕に力が込められる。
「…この俺を騙すなんて、アンタもやるな」
「う……すまん」
「…クク…だがよ、ギロロ先輩こそ、騙されてるぜェ」
「…は?」
ちゅ、と頬に唇が当たる。
クルルは俺にすり寄ると、破った写真を一枚拾い上げた。
「合成っスよ、これ。よく見たらすぐ分かる仕様なんスけどねェ?」
「…!じゃ、じゃあサブローとっ」
「嘘っぱちだってーの。前々から用意してたエイプリルフール用のな。……まさかアンタが夏美とデートしたっつー嘘つくなんて思わなかったがよ」
「クルル…っ」
「……ギロロ先輩、本当に、嘘なんだよな…?」
不安げに、泣きそうになりながら縋るクルル。
そんなクルルに苦しくなって、今度は優しくキスをした。
「…先輩」
「当たり前だクルル。嘘をついて悪かった…愛してる」
「……ん」
純粋なキミについた嘘
良かった、なんて嬉しそうに笑うクルルに、何度も何度もキミをした