□嘘をついただけだ、安心してくれ
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ギロロ先輩の横に寝そべって、先輩の顔を盗み見る。

気付いた先輩が、ぎこちなく俺の頭を撫でた。幸せ。


「……ギロロ先輩」


好き。大好き。

撫でる手を掴んで引っ張れば、先輩が俺に倒れてくる。


「…危ないだろうっ!」

「クク、咄嗟に受け身とれないのはまずくね?」

「ったく、貴様は相変わらず意味不明だ」

「そりゃドーモ」


倒れ込んだ体を抱き締めて、息を吸った。


「…あまり甘えてくるな、仕事はどうした」

「終わり。…甘えてもいいだろ、別に」

「……お前は終わっていても俺はまだなんだ」

「…先輩、冷たい」

「そうか。いいから離せ」


……何だよ、ケチ。

おとなしく腕をゆるませば、直ぐに離れて行く体。


背を向けられ、それっきり。


「(……先輩)」


分かりますか、先輩。

俺が甘える意味が。なんで甘えるのか、気付いてますか。


触れてくれた頭を自分で撫でる。


嬉しくて、でも、なんだか悲しい。


寂しいんだ、不安になるんだ、あんたの事で。


「……先輩…」

「………」

「…好き」

「……………」


振り向いてくれよ。
俺もだよって笑って、抱き締めて。


だけど聞こえたのは、溜め息。


「………先輩」

「うるさい」

「…………」


……機嫌悪い、のか?

だとしたら、ここにいても寂しいだけ。


「………」


起き上がって、少しだけ滲んだ涙を拭う。

ふと先輩が、俺の方を向いた。


「せんぱ、」

「俺は貴様が嫌いだ、クルル」

「…!」


真面目な顔で、ただその言葉は心を深く抉った。

信じられなくて、先輩に腕を伸ばす。


「……ギロロ先輩、なに言って…」

「…お前を一度でも愛したことはない。それでも、貴様は俺に好意が持てるか?」

「せん、ぱい」

「…俺は男だ。お前も。…有り得るはずがない」


いつだったか、俺が気持ちを告げたときの先輩の顔を思い出した。

あの時のあの顔は、困惑した顔だった。

今の顔は、ただ冷たく突き放すだけの、無表情。


「……お前には悪いが、貴様は夏美の代わりなんだ。欲の捌け口としてしか、見ていない」

「…っな……に、それ」

「………少なからず情くらいはわくがな。…甘えられたところで俺は何もしてやれない」


…意味が分からない。

今までの事、思い出全部、嘘だったのか?
好きだったのは俺だけで、本当は先輩は夏美が、俺なんか


「……っや、めろ、やだ、聞きたくない、やだ…」


分からない。なあ、今までのは全部演技だったのかよ?


震えた体、目から流れる涙。


怖い。捨てられるの、俺。

捨てられるもなにも、愛なんかなくて、俺がただ好きでいただけ?


再び背を向けた先輩は、長くため息をつく。


早く出て行け、そう言われているみたいだ。


けれど足が動かない。
涙が止まらない。


「…せん、ぱい」

「なんだ」

「…………俺は、先輩が…」


好きだよ、なんて言えなかった。

先輩が立ち上がり、テントを出て行ったから。


「…ギロロ先輩…」


抑え込んでいた不安が、悲しみが、溢れかえろうとする。

嫌われた、否、もとから好かれていなかっただけ。

夏美の代わり、なんて……そうか、思いもしなかった。


あんたが俺を嫌いでも、それでも俺は、幸せだったと思えるよ。


今日まで本当に、幸せだった。

呆気ない終わりだったけど、それでも、やっぱり俺はアンタを好きでいるよ。


「……ん?」


ふと、先輩の座っていた場所に一枚の紙切れが置かれていることに気が付いた。

拾い上げ、それが写真であることを知る。


「…俺の写真…?」


隠し撮りのようだ。

写真の裏に紙が折り畳まれて貼り付けられている。


それを剥がして広げて見たら、手紙で。


「……っ、あのやろ…!」


走り書きをされたその手紙。

それを握り締め、俺はテントを飛び出した。

外には優しく笑う先輩。


腕を広げた先輩に、俺は勢い良く飛びかかった。















小さく書かれた「愛してる」

それに気付くのは、数秒後





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