□甘え方の下手な後輩との付き合い方
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可愛いと言われるようになったのはいつからだったか覚えてない。

二人きりになったとき、唐突に言われることもある。

頭を撫でながら言われたり、昨日はキスをしながら言われたり、抱かれるときも言われた。


可愛い、という形容詞は、俺に使うべき言葉ではないと思う。

可愛い。愛らしい。

俺は少なくとも可愛い見た目ではないし、愛らしい性格もしていない。

気味の悪い性格、ひねくれ、嫌な奴。見た目はキモイと日向姉からは評価される始末だ。実に愉快。

ともかく、俺のどこにそんな可愛い要素があるのか、自分でも理解しがたいというのに、あの人は何を可愛いと言うのだろう。


嘘やお世辞、おだてるわけでもなく。

愛おしげにそう言われてしまう度に、言葉に詰まってしまうのだ。


「クルル」


ああ、まただ。

いつの間にか二人きり。

離れて座っていたはずなのに、隣には赤い人。

心臓がうるさい。静まれ、ばか。


「……クルル」


あ、あ。

抱き締められた。誰か来たらどうすんだ、俺は一切弁解はしないぜ。

体が動かない、いつもそうだ。

どうしていいか真っ白になる。


「……暑苦しい、退けろ触んな」


口から出るのはいつだって可愛げのない台詞。

これでも可愛いなんて言えるのか。


先輩をチラリと見れば、小さな笑い声。

優しい顔だ、意味が分からない。


「…可愛い奴だな、本当」


……可愛いなんて、よく言えるな。


「…意味、わかんね……」

「可愛い。クルル」

「………さんざん喧嘩腰で噛みついてきたあの頃の先輩が聞いたら、俺と同じ事言うと思うっスよ」

「ふ。そうかもしれん。昔は外見しか見てこなかったからな」


中身だって可愛かねえだろ。


そう思って見上げたら、キスをされた。

ドキリと心臓が大きく脈打つ。顔が熱い、体中熱い。


「……ほら、可愛い」

「な、にが…」

「表情。…と、あと、多分無意識だろうが、この手だ。俺を掴む手、震えているぞ」

「ち、が…別に震えてねえ、あと顔見んな」

「強がりも可愛い。…可愛いぞ、クルル」


再び重なり合った唇。

優しく触れるそれは、少しの間くっついただけでまた離れていった。


「…あんたは可愛げねえな…夏美の前で好きも可愛いもろくすっぽ言えなかったあの頃のあんたはどこに行っちまったのやら」

「は、夏美の話題を出してくる辺りは可愛くないな。…あ、嫉妬か?」

「誰が嫉妬するかよ」


ただ懐かしんでみただけだ。

夏美に惚れていたときと、随分態度が違うから。

そう思って顔を逸らせば、耳元に寄せられる唇。


「お前と夏美は違う。…お前は、特別なんだ」


優しい響き。胸がじんとなる。

ああ、なに言ってやがる恥ずかしい。


「…クルル、好きだ」

「……へえ、そうかい」

「ああ」

「………」


真っ直ぐな奴。

こういった感情は苦手だ、ひねくれた俺には似つかわしくない。

だけど好きだ。
どうしようもないくらい好き。

慣れてないからどうしていいか分からねえし、こんな感情は扱いきれる気がしないけど。


「……ギロロ先輩」

「なんだ?」

「…………」


あんたの腕の中は心地いい。

抱き締めて、キスをしてほしくなる。


言えるはずない。そんなこと。


黙ってギロロ先輩に体重を預けた。
温かい。落ち着く。


「……ふ、可愛いな」

「ク?…何が」

「お前が」

「…意味ワカンネ」

「気にするな、別に理解は求めてない。…クルル」


ああ。キスされた。

してほしかった、そういう気分だったから、おとなしく目を閉じる。

思考がどろどろに溶けてしまうようなキスに、体の力が抜けた。

唇が離れると、嬉しそうな顔の先輩。

これこそ可愛い顔、だと思う。


「…本当、お前は可愛い奴だな」


愛おしげに言われて、微笑まれて。

心臓は忙しなく動くし体温も上がる。


「可愛い、クルル」


可愛いって言われて嬉しいなんて。

……ああほんと、意味分かんねェ。














素直になるその時に

とびっきりの甘いアメを






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