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□兄から二人に祝福を
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まったく、何を思って「遊びに来た」などとふざけたことを言ってのけるのだろうか。
我が兄ながら理解不能、いや、今までだって理解出来た試しはないが、そもそも此処は戦場で前線基地だぞ。
いや、兎にも角にも俺が言いたいのは実はそこじゃなくて。
「何故クルルのラボにいる、ガルル」
「あっらギロロ先輩、見つかっちゃった」
「おや、それは大変だ」
当たり前のようにクルルのラボに居るガルル。
ガルルが来たのを知り、地球調査から走って戻って来たらケロロは行方知れずだとほざき、何となく嫌な予感がしてラボに来てみたら、これだ。意味が分からん。
見たことのない応接室のようなものを展開し、ガルルはそこで寛ぎながらクルルとお茶を飲んでいた。
更に気に食わないとするなら、その二人は何やら俺に隠れて逢っていたような雰囲気で、妙に距離が近いということ。
「ギロロ、こっちに来たらどうだ。クルル、ギロロにもお茶を貰っていいかな」
「くっく、仕方ねえなァ」
ぴくり。
聞き捨てならない言葉が一つ。
…クルル、と、親しげに、それも呼び慣れたようなガルル。
今のやりとりは不快に思うほど自然で、まるで。
「そういえばクルル、少し痩せたかな?前に会ったときの方が、俺としてはいいように思うがね」
「あら、分かりますぅ?最近忙しくてねェ…クックック、肩も凝っちまう」
「それならほぐしてあげよう」
「ふざけるなガルル」
咄嗟にクルルに伸ばされた兄の手を振り払い、クルルを背に庇う。
もう見ちゃ居られない。
これ以上、二人が一緒にいるのは耐えられない。
そもそもクルルが俺じゃなくガルルを見ていることが嫌だ。気に食わない。
内心の焦りを悟られまいと、ガルルを睨み付けた。
――悔しいが、二人はどうしてか絵になった。
俺よりも自然とクルルと触れ合い、会話していたように見えた。
まるでそれは夫婦のように。
頭脳明晰なクルル。何においても完璧なガルル。
一瞬、ガルルの方がクルルを幸せに出来るのではないかと思ってしまった。
愛情などと謳っても、俺には権力も能力も無く、端から見たらクルルのお飾りのように見えているかもしれない。
お飾りより、引っ付き虫か。
そういった評価をされてもおかしくないほど、階級は離れているし能力も足りない。
そんな不安要素はあまり考えたくはなかったが、ガルルを目の前にしてそれを突きつけられたような気がして。
「…ギロロ?」
「……ッ」
もし、ガルルがクルルを欲してしまったら。
俺は兄には勝てるだろうか。
クルルを幸せにしたいという気持ちは負けないはずだ、愛情も。
ただ現実を見たらどうだ。
クルルは結構現実主義者だ、もし、ガルルが手を伸ばしたらそれを掴んでしまうかもしれない。
俺では、クルルを幸せに出来る力が無い。
でも、それでもクルルは渡したくないんだ。
嫌だ、クルルが居なくなるのだけは絶対に。
「…何しに来たんだ、ガルル。クルルに何か用なのか」
低く唸るような声が出た。
ガルルはきょとんとしていたが、ややあってクルルの方が答えだす。
「俺がご招待したんスよ?ククッ、話をする機会なんて滅多にないからな」
「……クルルが…」
胸が、痛み出した。
血の気が引いていくような感覚。
「ギロロ、そう怖い顔をするな。ただクルルに持て成してもらっていただけだ。なかなかお前が戻らないからね」
「………っ」
「…っと、成る程。ギロロが気に食わないのはそこか」
「く?」
「ふっ、ギロロは昔から思い込みが激しいのを忘れていたよ。…クルル曹長、どうやらギロロはあなたを呼び捨てることが気に食わないらしい」
「!」
ガルルに言い当てられて思わず顔が熱くなる。
思い込み、という単語にハッとしたが、ガルルはおかしそうにくつくつ笑いながら立ち上がった。
「安心しろギロロ。クルル曹長に興味はない。確かに能力的なものには興味はあるが、彼は私の手に負えない問題児だ」
「くっく、言ってくれるねェ旦那」
「仕事はともかく、プライベートで貴方と気が合うとはまったく思いませんからな。…ギロロ、お前がよほど大事にしていることが分かって嬉しいよ。正直、理解は出来ないがね」
「……ガルル」
「あまり喧嘩をするなよ」
言いながら、ガルルは笑みを深めてラボを去る。
去り際にしっかり、お茶の美味さ加減や礼を忘れず告げて。
図らずも二人になった空間に、どこか気まずいような雰囲気でクルルを振り返る。
クルルは顔を真っ赤にし、俺と目が合うと照れたように笑った。
「クルル」
「くっく、いっちょ前に兄貴に嫉妬して、可愛いなァ先輩」
「……クルル、俺はお前をガルルに…いや、誰にも渡す気は無い」
「ク…」
「悔しいが、二人を見ていたら、お前はガルルと居ると絵になると思っていた。ガルルがもしお前を欲してしまったら、ガルルならお前を俺より幸せに出来るのではないかと」
「…なんだそりゃ…」
「…俺には力も金も、頭脳も無い。ただお前を好きなだけでは幸せに出来ないかもしれない…ガルルとお前が居るのを見て考えさせられた」
「………」
「…けどな、俺はやはりお前が好きなんだ。離したくない…お前が、離れていくのは嫌だ」
クルルの手を握り、見つめた。
ますます真っ赤になったクルルは、それでも目をそらすことなく俺を見つめ返す。
「…クク、そりゃまるで…プロポーズみたいっスね」
「……」
「………変なおっさん」
笑いながらクルルがゆっくり俺に体を預ける。
握っていた手を離して抱き締めると、すり寄るようにクルルが甘えた。
「…喜びな。俺を幸せに出来るのは、あんたしかいない」
「!」
「地位や名誉、頭脳なんかあんたには必要ない。平凡でいい。まあ金はある方がいいが、それは別に貧乏でないなら構わねえ。今のまま、俺の隣にいてくれりゃあそれでいい」
「クルル」
「もちろん上を目指してえなら止めやしねえが、俺が欲しいのはあんた自身だ…他は何も望まねえよ」
優しい声色で珍しくお喋りなクルル。
ただその言葉は、俺にとって嬉しかった。
クルルの体温、鼓動を感じる。
「…クルル…俺もだ。お前が居てくれればそれでいい」
「……」
見つめて、キスをした。
クルルを優しくソファーに押し倒して、深くキスを交わす。
「好きだ」
「ん…俺も…好きっスよ、ギロロ先輩」
言いながら、二人で笑って抱き合った。
甘い甘いひとときは、お茶がすっかり冷めるまで続いた。
兄から二人に祝福を
「おや、だいぶ長かったな。それとも短い方か?」
「なっがっがるっガルルッ!?ま、まま、まさかっ、見っ…!」
「見てはいないが、聞こえはしたかな。ギロロは随分と甘い囁きを…」
「だああああっ!」
「くっく、悪趣味なこった」
「キミこそ、気付いていたのに知らぬふりをしていたのでは?まったく、どちらが悪趣味か」