□あいしてますよ、は飲み込んだ
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まれに、時間を持て余し何もやる気が起きないときがある。

大好きな発明も、カレーも、嫌がらせも、なにもやる気になれずぼんやりとする時間が。

そういう時に、あの人に会いたくなる。

ただ呼びつけるのは何だか癪だし、かと言って理由をでっち上げる気にもならない。

それに理由もなく呼びつけるとあの人はやかましく怒鳴る気もするし、気が済むまでの間、ずっと側には居てくれないだろう。

――仕方ない、此方から出向いてやろうか。


短縮経路で日向家のリビングに入り込む。

静かなもんだ。
お昼も過ぎたこの時間、リビングには誰もいない。

あの人のテントが見えるソファーに乗り、ただ何となく眺めた。


この時間は昼寝か、もしくはパトロールのどちらかだ。

しばらく眺めていたら、ぱさりとテントの入口が揺れる。


「……」

「……」


ああ、昼寝だったのか、なんてのんきなことを思いながら、俺を見て驚いた顔をしてる赤い人と見つめ合う。

寝ぼけながらも気配によって警戒したのか、武器を手に出て来たのがなんだかおかしかった。


「お昼寝の邪魔してすいませんねェ」

「い、や……なんだ、クルル。どうした?珍しいじゃないか」


武器をテントに置き、俺のところまで来る赤い人。

何となく、嬉しそうに見えるのは気のせいじゃないと思う。


「ちょいとヒマでね。やる気出るまで面白いもの探し」

「…ここに面白いものなんかないぞ、ケロロのところにでも行けばまだ何かあるんじゃないか」

「………」


うーん、なんだ、この感じ。

いや、先輩の言うことは正しい。ここに面白いもんは何もない。

隊長のところにいた方が暇つぶしにはなる。

だがそうじゃない、そうじゃないぜ赤ダルマ。

鈍感に汲み取ってもらおうと思う方が間違ってるが、でも、隊長のところに行けばと言われるのは、なんだかそう、あれだ、寂しい。


「……クルル?」

「………なんでもねえ」


あーあ、またやる気無くなっちまった。

もういい、隊長のところに行ってやろう。


「クルル」

「あん?」


移動しかけた途端に、掴まれた腕。

ああ、熱い手。


「……ヒマ、なんだろう?」

「ん、まあ。だから今から隊長のところに行ってやるんすよ、あんたの望み通りに」

「の、望んだ訳じゃないが」

「ク?」

「………ちっ」


いや、舌打ちの意味が分かりません。

とかなんとか思っていたら、先輩がソファーに座って俺を抱き込んだ。ますます意味が分からない。


「…ギロロ先輩…?」

「前言撤回する………行くな」

「…………」


ああ、俺はなんて単純なんだ。

こんな言葉一つで、嬉しくなるなんて。


「……仕方ねーなァ」


先輩に体重を預けて、くつくつ笑う。

会いに来た、ちょいと会話さえ出来れば、と思っていたが、まさかこういう展開になるとは。


「…クルル」

「ん?」

「…………好きだ」


小さな声で囁かれた言葉。

唐突過ぎて、一瞬頭がフリーズした。言葉とは恐ろしい。


「…なんだい突然」

「いや……その、何となく…」

「何となく、ねェ…くっく」


あまり頭で考えて行動する人じゃないのは知ってるが、こうも直球だとこっちがついて行けない。

悔しいから少し笑って、先輩の背に手を回す。


「先輩はなんで俺が好きなの?」

「え。…あ、いや、その」

「あんたが日向夏美を好きなのは自分より強かったからだろ?」

「……クルル」

「先輩が俺を好きになる理由が、見当たらねえなァ」


あの女ほど強い力はない。
頭脳は勝るが優しさや明るさは俺にはない。

調べたわけではないが、だいたい予想がつく先輩の好みとは、俺はまったく該当しないハズ。


ちょっと意地悪い質問をしてからかうつもりだったが、自分で言っておいて気が落ちた。言わなきゃよかった。


「……クルル」

「やっぱいいわ、無し。今の無し」


余計なことを考えないで、この腕の中を堪能しよう。

これはあの女は体験出来ない、いや、誰もが体験出来ない、俺だけの特権。

少し気分が良くなったからしがみつく力を強くした。


「…なんで、と、聞かれると…よく分からないんだが」

「もういいって言ったろ?」

「俺は、お前を守りたいと思ったんだ。側に居たいと」

「……庇護欲?」

「いや……なんだ、そうじゃない、守りたいと言うのは………その、お前の隣に誰かが居るのは悔しくてな…俺にもよく分からんが、とにかく、お前の側に居たいんだ。それじゃダメか」

「………」


嫉妬、したのか。誰かが隣に居ることに。

無意識のまま独占欲を持ったのか、いつからかは知らないが少なからず俺に好意を持っていて、嫉妬して初めて気持ちを自覚したのか。

ああ、この人は真っ直ぐだ、苦手だ本当。ますます好きになったらどうすんだよ。


「……くっく…まあ、いいんじゃねえの、その回答…嫌いじゃないぜ」

「………」

「クルッ?」


なかなか荒っぽく押し倒され、文句を言う間もなくキスで口を塞がれた。

僅かな隙間を縫うように滑り込んできた熱い舌は、歯をなぞり硬口蓋に触れる。

否が応でも甘い吐息が出てしまい、舌を絡められるとぞくりとして思わず背中に回した手の指に力が入った。

先輩が満足するまで続いたキス。


「っは……なんすか…」

「…伝わったか?」

「なにが」

「その、俺の…気持ちだ」

「……気持ち?」

「お前を好きだという気持ちを言葉にするのは、難しい…こうするしかうまくお前に伝わらん…かなと」

「………」

「…クルル、好きだ」


優しく囁かれた甘い言葉。

先輩の俺を見る目も、俺に触れる手も、優しくて暖かい。


「…俺も、先輩が好きっスよ…」

「そうか。…クルル」

「くっく……くすぐってぇよ、ばか…ほら、暇つぶしも終わりだぜ先輩」


充分満たされた、やる気も高まった。

ああ、やっぱりあんたがいないと俺はダメなんだな。


「…もう行くのか?」

「……くくっ、なんだい、寂しい?」


先輩の頬に触れれば、その手を握られ指の間にキスをされる。


「…クルル…テントに来ないか」

「……」

「…来い」


俺の意見なんか聞かないつもりか、まあそれもいい。

おとなしく抱きかかえられながら思わず漏れた笑みを隠すことなく、暖かな熱に身を委ねることにした。
















言わなくても汲み取って

ああそう、俺の手を取って優しくキスして




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