□来年にはたくさんの写真を
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ギロロ先輩のテントにこっそり忍び込んだ時に見掛けた、夏美の写真。

それは何枚も何枚も、大事そうに箱にしまわれていて。


別に、驚きはしなかった。

驚きはしなかったが、ひどくショックを受けた。

そういやあの人のベルトには、夏美の写真が入っていたはず。以前ベルトを盗み出し中を見たときも、同じくらいショックだった。

今も多分、夏美の写真が大事にしまわれている。


見なかった事にして、普段通り、恋人らしくしておかなければ。

そう思って箱をしまおうとしたときに手が滑り、思いきりぶちまける。
そんな時にあの人がテントへと戻って来て。


「なっ、貴様!何をしとるんだ!」

「ク、ひ…」


足元に散らばった写真。

俺を押し退け、拾う先輩。

胸が、痛い。


「…何か変なこと、してないだろうな?」

「……してねーよ…」


…なあ、言うことってそれなのか?

俺が写真見つけてんだ、弁解とかじゃねーの?

写真の心配なのかよ。俺の心が今悲鳴あげてんの、あんた気付かねェのか?


「そもそも何しに来たんだ」

「……」


甘えに。あんたに会いに。

あんたの帰りを待って、あんたと一緒に居たかったから。


「…ん?一枚足りん」

「へ」

「クルル、貴様、本当に何もしてないんだろうな?」

「……っ」


なんで睨むんだ。俺よりも写真が大事なのか。夏美の方がいいのか。
そりゃそうだよな、俺は男だし可愛くねーし強くもねーからな。

あんたの好みとは真逆だもんな。


「何もしてねェって言ったの聞こえてませんでした?その辺に落ちてんじゃねーの」

「なら探すの手伝え!元はといえば貴様が悪戯して落としたのが悪いんだろうが!」

「数え間違いじゃねーの」

「いいから探せっ」

「ヤダね」

「貴様っ」


あ、おっかない顔。

心がばらばらになる。


「……そんなに大事なのかい」


俺よりも、写真が、夏美が…。


「…っ」

「あっおいっ!何を…ッ」


先輩の手にある一枚の夏美の写真を奪って引き裂いた。

ビリビリと破いて紙屑にして。

気分が晴れない。嫉妬なんかカッコ悪い。


「クルル!」

「ふざけんなよ!こんなっ、写真…ッ」


言葉は途中で途切れた。涙が溢れて、言葉が出なくなったから。

その場にしゃがみ込んで、ガキみたいに泣きじゃくる。


「クルル、お、おい、泣くな、何で泣くんだっ」

「…ッ」

「クルル…」


先輩の困った声色。ふと、テントの外から聞き慣れた声。


「ギロちゃーん?夏美の写真、決まったかしら〜?」

「あっ、いや、ちょっと待てっ」


…日向秋?夏美の写真?


「おばあちゃんに送る大事な写真、みんなの意見も聞きたいから…」

「わっ、分かっとる!直ぐに決めるから待ってろッ」


ガタガタと箱に詰めたかと思えば、その中から一枚を取り出して箱ごとテントの外へと出て行くギロロ先輩。

冷静になっていく頭、外から「やっぱりコレよね」なんて弾んだ声。

再び戻って来た先輩の手に箱は無く、俺はますます恥ずかしくなる。


勘違い、だった。
先輩のじゃなかった。

なのに俺は、勝手に嫉妬して、あまつさえ写真を破いてしまった。

元に戻すことは出来るが、そうじゃない。困らせたことは、変わらない事実だ。


「…クルル」

「…ッ」

「どうしたんだ、急に。…クルル」

「……ギロロ、先輩」

「ん?」

「……俺…」


ぼろぼろと涙が落ちる。
ギロロ先輩がぎこちない動きで俺を抱き締めたから、それに縋るように腕を伸ばし抱き付いた。

優しく頭を撫でる手。背中に回される手。


「……な、何となくだが…お前、まさか、嫉妬したのか?」

「…………ん」

「…そっ、そうか…それで、か……そうか…ははっ」

「……なんで嬉しそうなんだよ」

「そ、そりゃ、お前……すっ、好き、な奴に、嫉妬されたら、嬉しいだろう?あ、あい、愛され、てる…訳だから」

「……先輩」

「な、なんだ」

「…大好き」


ぼぼっ、と火がつくみたいに赤く熱くなる先輩。

素直に謝れない代わりに、口に出た好意の言葉。


「………誤解させたみたいで、悪かったな」

「…あんたが謝ることねーだろ」

「…不安にさせた」

「…………」

「クルル。…俺も、お前が好きだ」

「…くぅ…」


優しい言葉に、胸がじんとなる。

小さな嫉妬だった、咎めるどころか、この人は優しく抱き締めてくれた。


「クルル。…泣き止んだか?」

「……ん」

「ははっ、すごい顔だな」

「…うるせェ…」

「…そうだ、クルル」

「ク、え?」


ギロロ先輩が持ち出した、カメラ。

引き寄せられたかと思えば、かしゃりとシャッター音。


「…くる?」

「……そういえば、お前と二人で写真を撮ったことは無かったからな」

「…先輩…」

「大事にする」


胸が熱い。さっきあんなに泣いたというのにまた泣きたくなるなんて。


「ばかやろ」

「バカは貴様だ」


ぐりぐりと頭を撫でられた、イテエけど、嬉しい。


「……大好き、先輩」



優しい優しい、あなたが、大好き。












「俺の写真、いっぱい撮っとくぅ?」

「えっ、あ、ああ、そうだなっ(隠し撮りは黙っておこう…)」



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