□おまえがいい、あんたがいい
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なんだこれは、と絞り出した声は思った以上に低く震えた。

クルルはほんのわずかに眉間にしわ寄せ、俺の手の中にある写真を見る。

俺の手にある写真に写るのはクルルと他に男が一人。抱きしめあった二人の写真。

クルルは小さく舌打ちをして、どこでそんなもん、と吐き捨て手を伸ばした。


「返しな」

「これはいつのだ?この前お前が出かけた先か?」

「そーですね」

「仕事だと聞いていたが?」

「仕事の後の打ち上げっスよ。あんたもするだろ」

「貴様が打ち上げに参加するほど社交的だったとは思えんがな」

「……メンドクセェな、なんなんスか。いいから返してくださいよ」

「ふざけるなっ!」

「っ!」


言いようがない怒りと、悲しみと、とにかくごちゃ混ぜになる感情が暴れ出す。

クルルの胸ぐらを掴んで立ち上がらせて、壁に押しつけた。


「ってェ…!」

「貴様は、自分が何をしたのか分かっていてその態度なのか」

「…なに、って…別にあんたに関係ないだろ」

「っ!」


関係ない?俺とクルルは恋人なのに、自分の浮気を関係ないと言うのか。

そもそも浮気という概念が俺とこいつとでは違う気がする。写真は抱き合っているが、これ以上の何かがあったかもしれない、それは俺に関係ない事なのか。遊びだというのか。遊びなら何をしても関係ないのか。


「…あんたなに怒ってんだよ…」

「分からないのか。貴様には」

「………二次会が気にくわねェの?」

「………」

「…………」


クルルが俺を睨む。その目はレンズでよく見えないが、たぶん不機嫌になったのだと思う。

苛立ちを抱えてるのはこちらだ、クルルにとって俺はなんだ。
相手が男だから浮気にはならないというのか、ああそれは確かに普通浮気であれば女とだろうけれど。
俺は相手が女でも男でも嫌なんだ。
クルルという男には誰であっても好意的に近寄らないでほしい。
これは俺のわがままだ、クルルには鬱陶しいと言われそうだが、俺は案外独占欲が強い方なんだ。

そもそもこういった写真を持っていることが俺には理解できない。大事な写真なのかとさえ邪推してしまう。


「……好きでいるのは俺だけなのか」

「は?」

「貴様は俺を何だと思っているんだ。俺だけがお前を好きでいるだけなのか。お前は俺が見てなければ平気で他の男と」

「ちょい待ち。……何の話だ?」

「何って、だからこの写真だっ」

「ク。…あ〜…ナルホド…」


クルルは写真を見てから俺を見て、何故だか少しにやりと笑う。その反応に一瞬顔をしかめたが、文句を言う前にクルルは俺の胸ぐらを掴みそのまま引き寄せて唇を寄せ文句は阻まれてしまった。

一瞬で終わったキスにほんの少し寂しさを感じてしまい、誤魔化すようにクルルを睨む。


「…とぼけるなよ」

「とぼけるもなにも。…ククッ、ギロロ先輩、コレで怒ってんスか。浮気してるって?くっく、かわいい奴」

「なっ」


からかうなと声を荒げようとするも、再びクルルにキスで塞がれてしまった。
少しだけ長い、触れるだけのキス。


「…浮気じゃないっスよ、コレ」

「な、なら何故抱き合ってるんだっ」

「……まァ…酔った勢い」

「酔った勢いで何をしてるんだ馬鹿者!!そもそも酔ったからといって抱き合うなんておかしい!こんなに気を許す相手なのかっ!?これ以上も…っ」

「違いますって。…………だから、その…」

「クルル」


ほんの少しだけ赤くなるクルルに不安だけが募る。
こいつは一体何をまだ隠しているのか。言えないことなのか?
写真の男に好意を持たれたのか、或いは…。


「……会いたく、なっちまったから」

「…は?」


消え入りそうな小さな声。俯いたクルルは、胸ぐらを掴んだままの俺の手を包む。


「……飲んでたらよ………なんか、虚しくなって……」

「………」

「…そしたら、ほら、こいつ、赤いじゃん。それ見たら、急に、寂しくなってきて」

「…クルル」

「…ギロロ先輩に、会いたくなったんスよ……抱き合うなんて本当はしたくなかったし…こいつは違うって、分かってたんスけど……」

「……それで手を出したのか?」

「抱き合っただけだ、本当に。すぐ離れたし。……周りにはただの嫌がらせだとか悪ふざけとかそういう認識しかされてねーし…」

「………あのな、お前にしては随分と軽はずみなミスだ。これで好意を持たれたりしたらどうする」

「考えすぎっスよそれは」

「だがな」

「この人にゃ妻子も居る。仲のいい家族だ。この時も普通に笑ってたし……言い訳みたいに聞こえちまうけど、本当に、あんたが思ってるようなことはねェよ」

「……」

「ギロロ先輩、俺のこと、信用出来ねェ?ウソだって思うかい?……俺なんか、嫌になっちまった?」


震えた声。クルルはぎゅっと俺の手を包んで、俯いたまま黙ってしまった。

ウソかどうか、信用してるかどうか。俺はクルルを疑ってしまっている?


「…クルル、お前は…俺のことが好きか?」

「………ん」

「……」

「……ギロロ先輩の、こと…………好、き…」

「クルル…」

「…っ好き。大好き、あんたが、先輩が好きなんだよ、こんな事して悪かったよ、でも本当に俺は浮気してない、頼むから信じて、俺から離れていかないでくれよ…っ」


ぼろぼろ泣き出すクルル。
縋るように包まれた手。

…ああ、俺はなんて酷い…


「泣くなクルル。離れてなんかいかない。お前が好きだから俺は嫉妬したんだ。……クルル、疑ってすまない。…クルル」

「…っ」


クルルを抱き締めれば、クルルも強く抱き返してくれた。


…ああそうか、寂しくなって、俺に会いたくなったから。


「…おまえの方がよっぽど可愛いぞ」

「……ク?」

「気にするな。…クルル、こんな事は二度とごめんだからな。……次に同じことをしたら…」

「しねぇっ」

「ん。……いい子だ」


顔を上げさせ、クルルと唇を重ね合わせた。
感情のまま、互いに唇を濡らして深まるキスにゴクリとのどが鳴る。
唇を離してしばらく見つめ合えば、クルルがゆっくりと俺に体重を預けて甘え出す。


小さなその体を抱き締めて、クスクスと笑うクルルの耳元で、愛を小さく囁いた。


「愛してる」






















だからずっと、こうしていたい




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