□手を伸ばして
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ギロロ先輩が好きだ、でもそれを言えるほど素直じゃない。

甘えることもしない、出来ない。素直になれやしないから。


隣にいてくれると嬉しい。幸せ。
人目がないと手をつなぐこともある。
その優しい握り方も逸らされた赤い顔も、嬉しい。

先輩も言葉は言わないが、こうして態度や行動で表してくれる。

その暖かさに甘えて、俺はついつい幸せに、ギロロ先輩に溺れそうになる。


「クルル」


寝床となる狭い押し入れに二人。

シーツをまとう身体は気怠く、余韻を残していた。


「…大丈夫か?今日は少し無理をさせた」

「……んや、平気…スよ……」

「……ならいいが…」

「…くっく、珍しい……体を気遣うなんてよォ…」


いつもはしないくせに?と笑ってやる。先輩は一瞬何かを言いたげに口を開いたが、すぐに俺に口付け言葉を発することはなかった。


「…んっ…」


ぬるりと唇を舐められ、そこで素直に口を開くとゆっくり侵入してくる熱い舌。
口内を弄ぶ舌と、舌を吸われた際にぶつかる牙にびくりとする。

それでもこの人の大事そうなキスに、何だか胸が苦しくなって。

長いような短いような、そんなキスで頭がぼんやりした頃にゆっくりと唇が離れていく。


「クルル。…何で泣くんだ」

「……クック、酸欠?」


そんなわけねぇけど。
でも何故だか自分でも分かんねえんだから答えようがないだろ。

先輩を見つめれば、少しだけため息をつきながら抱き締めてきた。


「ク………ギロロ先輩?」

「…クルル、俺は……おまえがいなくなるのは嫌だ」

「…何の話?」

「…お前が俺から簡単に離れていきそうで、怖い」


怖い?
この人の口から出た珍しい言葉。

いつもと様子が違う先輩の背に腕を回して、背中を撫でる。


「……どこにもいかないっすよ」

「…クルル…」

「不安かい?」

「………」


強く抱き締められて少し苦しい。

何がそんなに不安にさせてしまったのか、思い当たる節はいっさい無い。

どうしたもんかね、と苦笑が浮かび、こうして己に執着を持っているこの人の気持ちに嬉しくてククッと喉が鳴った。


「なァ先輩」

「……なんだ?」

「俺はどこにも行かないし、先輩から離れる気も無いぜ。…なんでそう思ったんだい?」

「……」

「くっく…言わなきゃわかんねーよ、ギロロ先輩?」

「………」

「…んクっ…」


びり、と肩に走る痛み。
暖かいものが触れたから、どうやら肩を咬まれたらしい。


「おいおい…」

「……俺ばかりだ」

「ク?」

「俺ばかりお前をほしがって、お前を好きでいるような気がするんだ」

「…先輩…?」

「……お前からは一度も俺を求めてくれない」

「………」


恥ずかしいこと言ってくれちゃって。

俺から求めてないのは仕方ないと思ってくれ、そういう性格じゃあないからな。
ただ、好きでもない相手に体許したり此処まで甘さや痴態をさらけ出しちゃいねーよ。
あんただからこうして接してるのに。こんなに考えてるのに。バカな奴。


「…好きだ。…離れてくれるなよクルル。俺の側に居ろ」

「くっく……かわいい事言ってくれるねぇ…」

「……」

「側に居ろ、ねェ……それは俺の台詞だぜ先輩。…俺のこと離すなよ。何があっても。…俺にはあんたしか居ないんだ」

「…はっ、どっちがかわいいだ。貴様の方がかわいい事を言うじゃないか。……クルル」

「……ん、く…ぁ」


…しまった、また火をつけちまった。

欲をちりちりと見せる目にゾクゾクとして、触れる指や吐息に体が震える。

体を這う舌先が移動し、ぺろりと唇を舐められた。口をうっすらと開き舌を差し出せば深いキスに変わる。

どきどきする心臓、その胸を熱い手のひらが優しく触れてやんわりと撫でた。


「っ…は…あっ、ん…」

「はぁ……ふ…クルル…」

「…っは…はあ…っ……先輩…」

「……好きだ…クルル」


離れる唇は耳元に触れて、優しく囁く低い声はぞくりと体をふるわせた。
体に触れる熱い手はビクビクと反応する俺を楽しむように焦れったい手付きでゆっくりと下に降りていく。


「…あっ…」

「クルル……クルル」

「ん……ク、ひ…せんぱい…」

「…好きだ」

「……んっ…」


低い声が脳に響いて頭を麻痺させる。
じんと痺れる脳は、らしくない行動を引き起こす。

ギロロ先輩に腕を伸ばして抱き締めた。胸が苦しい。泣いてしまう。


「…好き…」


自然と口から出た言葉はしっかり耳に届いたようで、先輩は一瞬ぴたりと止まった。

それから先輩は俺の顔を見るな否や真っ赤に照れた顔で「ばかもの」と呟いた。












いつでも側に、離れないで




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