□小さないのち
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 なァ、あんたには分からないだろうな。





 部屋の隅、荒い呼吸と肌のぶつかる音、独特な匂い、喘ぎ声。


 俺を抱くのは赤い人。
 俺をみないその目は、いったい何を思っているのか。


 軍人にはよくある行為。志気を高めるために行う奴もいれば、ただ性欲を処理するための行為とする奴もいる。

 子供の出来ないこの体。男同士の交わり。

 この人の目的はストレス発散も兼ねた性欲処理。

 流石に長期滞在しているこの星。娯楽ばかり転がり平和ぼけもする。

 そんな中でも出来ない行為。
 俺たちは生き物だ、男ならなおさら、生理的現象には適わない。

 地球に来る前から度々からだを重ねることもあった。
 そこに愛はない、お互いに満足するまでただ繰り返される情交。

 俺を選んだのは先輩じゃない、俺が選んだのが先輩だ。

 この人も最初は躊躇っていたっけ。今じゃ俺が誘わなくても突然抱いてくることがある。


 ギロロ先輩と体を重ねる頻度はそう多いわけじゃない。

 ただ決まって、先輩と先輩の想い人との間に亀裂が入った時、地球侵略が失敗した時には合図もなく冷たい床に押し付けられる。


 会話はない、ただ俺の声が響くだけ。



 今日もぐったりするまで抱かれて、気絶した俺。

 目を覚ましたらまだ夜中、隣には先輩が寝息を立てていた。


 顔の左に走る古い傷。
 そっと撫でる。


 なァ、あんたに届いてますか。


 先輩の口がもにょりと動く。

 小さな声で聞こえた「なつみ」の名前。


 届いてるわけがない、先輩は知らない。


 自他共に認める嫌な奴の俺が、素直に体を提供し無様に喘ぐなんて。

 考えたことがあるかい、他の誰も知らない体、俺が抵抗もなく抱かれる理由。


 あんたにとっては何でもない行為でも、俺にとっては特別なんだ。

 あんたの目が俺を見ていなくても、あんたの熱を感じるだけでしあわせなんだ。


 あんたには一生分からないだろうな、俺の気持ちは、涙の意味は、心の叫びは。


 神様というのが本当に居るなら、一度でいい。
 この人の行為に少しだけでもいいから、俺に向ける愛を。

 一度も愛されなかった俺が、ただ一人、この人の愛を望んではいけないのだろうか。


 一度でいい。ほんの少しでいい。
 俺を見て、ただ一言、名前を呼んでくれるだけでいいんだよ、ギロロ先輩。





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