□さみしがり
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夏美と話す赤い人。

ぶっきらぼうに、照れながら。

あの人は夏美といた方が楽しそうだ。しあわせそうだ。

俺といるときにあんな顔をしたことがない。


本当に恋仲なんだろうか、俺とあの人は。

好きと言われたのはいつだったか。恋人のように触れ合ったことは無い。


夏美から何かを受け取ったらしい。デレデレとしているあの顔は情けない。あんな顔、されたことない。

貰ったものはクッキーのようだ。
あんなにしあわせそうな顔で食べるのは、夏美に貰ったからだろう。

いつだか俺が作ったカレーは、味なんて分からないとかどうとかで、あんな顔しなかった。


そもそもあの人は俺のどこが好きだと言うのか。

二人きりになっても、甘い空気になったことなんか一度もない。仕事の話が主だ、俺は仕事としてのパートナーって事なんだろうか。

仕事をする俺が好き?仕事をすれば、先輩はもっと好きになってくれるのか。

これ以上の仕事をすれば、先輩が。





翌朝から、侵略兵器を作り始めた。単独で地球の探査にも行った。データを集めて、それから本部の連中からの依頼も前よりもずっと多く引き受けた。

度々休憩しましょうとアンゴル娘に言われたが、休憩する暇さえ惜しかった。
もし、休憩している時に先輩が来たらどうだ。仕事している姿を見せなきゃ意味がない。
もともと寝ない生活もしたことがあったから寝なくても苦じゃなかった。

ふとモニターを見れば、先輩は夏美に芋を焼いて談笑していた。



まだだ。まだまだ仕事をしないと。



来る日も来る日も仕事に没頭した。侵略兵器は積み上がる。データをまとめた書類も、本部からの仕事も、全部全部。


「うぉ、なんだ…仕事中か?」

「!」


先輩。ギロロ先輩だ。来てくれた、仕事してる俺を見に来てくれた。

嬉しくて振り向いて、でも仕事してるところを見せないと意味がないから再びモニターに向き直った。


「おい、クルル…お前、ちゃんと休んでるのか?」


休む?休んでねえよ、ちゃんと仕事してる。


「…ここしばらくお前の顔を見てないから、し、心配したんだが」


心配?大丈夫、仕事してるって。
だからいつでも見に来てくれよ。


「……クルル、忙しい、…のか?」


忙しい。忙しいよ、仕事してるよ先輩。

これでもっと好きになってくれるのかな。それとも、もっと?


「……クッ!?」

「クルル、俺を見ろ」


横から伸びてきた手。

俺の手を掴んで、俺と目を合わせた先輩。


「…ギロロ先輩…?」

「どうしたんだクルル…モアに聞いた、ろくに寝ても食べてもいないそうじゃないか。目の下の隈がひどい…痩せこけてる」

「……?別に平気っスよ、仕事出来ますよ」

「これ以上やったら死んでしまう!」


ギロロ先輩が怒鳴る。

死んでしまう?誰が?俺が?

仕事してるだけで?

でもあんたに好かれるなら、死んでもいいのに。


「やめてくれクルル…これ以上はもう…!」

「……やめる?…なんで?やめたら、嫌いになるじゃねぇか…」

「…クルル?」

「仕事しなきゃ先輩俺のこと見てくれないっしょ…仕事やめちまったら先輩俺のこと……ギロロ先輩…もしかして、もう、嫌いになった?」

「な、クルル?」

「だから止めんの?俺なんかもういらない?仕事してももういらない?」

「おいクルルっ」

「……どうしたら、先輩俺のこと好きになってくれんの…?」


気が付いたらぼろぼろ涙がこぼれた。
脳裏に焼き付く夏美と先輩。
俺が入り込む余地なんて、最初から無かったんだ。

先輩が俺と恋仲なんて、有り得ない夢だったんだ。


先輩の顔を見てられなくて、俯いて涙を流す。

弱い俺なんか、先輩は好きになんてならない。

掴まれた手首に痛みが走った。
強く握られたらしい。

先輩を見たら、少しだけ怒ったような泣きそうな顔をしていた。


「…俺のせいだったのか」

「……え?」

「仕事をしているお前ももちろん、…好き、だ。だが、こんな無茶苦茶な仕事をするお前はお前らしくないだろう!」

「……先輩?」

「いつも通りでいいんだ、いつものお前が俺は好きなんだ。仕事してるだけじゃない、ケロロとくだらん作戦をして笑ってるお前も、楽しそうに笑うお前も、カレー食ってるお前も、全部好きなんだ」

「………うそだ」

「嘘じゃない」

「だ、って…先輩、俺なんか見てない…夏美ばっかりで…夏美といる方がしあわせそうだ…」


だから仕事したんだ、見てほしいから。気づいてほしいから。

俺のこと好きになってほしいから。


「…クルル」

「く…?」

「不安にさせて悪かった…だが、夏美よりお前が好きなんだ。本当だ。お前がいるから、俺は笑っていられる」

「…夏美より…好き…俺を?」

「そうだ」

「……」


訳が分からない、混乱する。

だって夏美より好かれてる感じは無かった、全然分からない、だって俺は。


「……!」


先輩の顔が目の前にある。
口は暖かいものでふさがれた。

触れるだけのものがキスであると気付いた頃に、熱いものが唇を舐める。

びくついたからだを押さえ込むように椅子に押し付けられ、うっすら開いた口に遠慮なくそれは入り込んだ。


「うっ、ん、んん…っ」


どうしていいのか分からないまま、しばらく慣れない感触が口内をなめ回る。そのたびにからだは震え、あつくなる。

ようやっと離れた唇は濡れていて、息も荒く呼吸もままならなかった。


「せ、んぱい…?」

「好き、だ。…好きだ、クルル」

「…せんぱい…」

「だから、もうこんな無理はするな…頼むから…っ」


抱き締められて、胸が暖かくなる。

止まっていたと思った涙があとからあとからわいてくる。


「……ギロロ先輩…すき…」

「ああ、俺もだ。クルルが好きだ」

「………せんぱい…」

「…働き詰めで疲れただろうクルル。…本当にすまなかった。今日はもう休め。…一緒にいてやるから」

「…ん……せんぱい…」


優しい声、ゆっくり抱き上げられ、額にキス。

どきどきした。こんな風に近くにいたことがないから。

先輩に抱き付いてみたら、頭を撫でられた。


「クルル…」


寝床にゆっくり寝かされ、優しい顔でまたキスをされた。

どろどろにとけていく思考回路。大丈夫だと思っていたからだは疲れを訴え始めていた。


「…せんぱい…おやすみ」

「ああ…おやすみ」


ぎゅっと抱き締められたからだ。

暖かい体温。


ああ、夢でもいい、しあわせな時間をずっとこのまま。



















目が覚めて隣にいた先輩に嬉しくて

またこっそり泣いてやった



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