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□一日遅れのクリスマス
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街はイルミネーションやクリスマス飾りで彩られていた。
パトロールを終えたギロロが、何となく街行く人を見てぼんやり考える。
毎年夏美へのプレゼントを悩み、挙げ句渡せないのを繰り返していたクリスマス。
行き場のないプレゼントは、何故だか毎年クルルに見つかっては、そのプレゼントをねだられるのだ。
あまり見せないような緩い顔と甘えた声で「ちょうだい?」と言われると、何故だか断れない。仕方無く渡してやるのがお決まりで、クルルもその日にはカレーをご馳走してくれるので、まあ悪くはないかと思ってしまうのである。
それでも毎年、今年こそ夏美へプレゼントを渡してやると意気込むのだ。そもそもクルルに渡すための物じゃない。夏美への贈り物だ。
それでも、頭をちらついた黄色にギロロは少し考えたあと、「まあたまには良いか」と独り言を呟いて街へと消えた。
クリスマスの日は、日向家で賑わうことが多い。前日は各々友人と、とか様々なようだったが、ギロロとにかく夏美へのプレゼントを隠しつつ渡す機会を伺っていた。
二人きりになるためにはどうしたらいい。夏美はサブローと楽しそうにしているのが気に食わないので無理に間に入ってはみたが、あまり効果はなかった。
時間が過ぎていく。焦りもある。プレゼント交換、という時間が来た。それの為に用意した別のプレゼント。うまく夏美に当たれば良いが、当たらないならそれはそれで良い。夏美へのプレゼントは別にあるのだ。
結果としてプレゼントはサブローに行ったらしい。中身はマフラーだ。俺のところに来たのはクルルのだった。中身はCD。自作の歌らしい。興味ない。
「な、夏美」
一人、廊下に出た夏美。トイレらしい。戻る頃合いを見て、広間から抜け出して、夏美に声をかけた。顔が熱い。心臓もうるさい。夏美は振り向いて、俺に合わせてしゃがんだ。こういう気遣いが嬉しいような、気恥ずかしいような、体格の差に切なくなる。
「なぁにギロロ」
「…その…」
周りは誰も居ない。扉一枚向こうには、まだ賑やかな声がする。まるで今この空間が別世界みたいだ。
「…た、たまたま見付けたんでな、気に入るかは分からんが、夏美にと思って」
「え?」
「つ、使わなくても良いぞ!」
渡したのは、街で見かけた地球人女性が耳にしていた飾り。ピアス、とかいうらしい。赤い色とピンクの花。夏美に似合うだろうと、思った。
夏美を見れば驚いた顔。それからふわりと笑って、それだけでギロロは真っ赤になった。笑顔を向けられただけで幸せだった。今までもしっかり渡せていればこの笑顔が見れたのに、惜しいことを。
「ありがとうギロロ!…でも、わたしピアス開けてないから直ぐにはつけてあげれないの。…だからピアス開けるまで大事にとっとくね!」
「あ、ああ!」
渡せた。笑顔を見れた。もう充分なクリスマスだ。
浮かれるギロロは夏美と再び居間に戻る。
そのずっと隅っこで、ただ一人。クルルが憂いな表情でギロロを見ていたのを誰も知らない。