□例えばの話をしようか
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 例えば、貴方ならどうするのだろうか。











「ギロロ先輩」


 穏やかな昼下がりだった。鍛練も見回りも終え、何となしに足が向いた先の部屋は地下基地内にある後輩のテリトリー。
 割りと習慣になりつつある武器磨きを、これまた習慣になりつつある後輩の側で行う。
 すぐ近くで後輩が作業する音をBGMに行っていたときに混じった後輩の声に顔を上げれば、後輩――クルルは、作業をしながらもう一度「先輩」と呼んだ。


「なんだ、どうかしたのか」

「例えば、なんだけどよ」


 よく共に居ることがあるが、その度にクルルは雑談と呼べるものをする。内容は兵器のデザインがどうとか、機能性がどうとか、そういう事務的な事も勿論あるが、腹が減っただとか今日は暑いだとか、そんな内容が主だった。

 そして、よく例え話をする。

 例えば、地球を侵略したら一番にしたいこと。
 例えば、旅行に行くならどこに行くか。
 例えば、宝くじが当たったら。
 例えば、1つだけやり直せるなら。

 実になりもしない、侵略の糸口にもならないクルルの例え話からだんだんと会話を広げるが、いつも意見は真逆になるので、その度に「やっぱり気が合わないなァ」とクルルは笑う。

 ギロロはどうしても感情的になりやすく、更には怒ったような言い回しをしてしまうのだが、それでもクルルは楽しそうに時間の許す限りで例え話をするのである。
 それは決して時間の無駄、とは、不思議と思わなかった。


 さて、今日はなんの例え話をされるのか。

 若干楽しみになりつつあるその会話を、ギロロはじっと待った。


「例えば、地球が明日爆発するとしたら、先輩どうする?」

「爆発」

「そう。それを知ったら、先輩最初に何すんの」


 これまた、唐突でなかなか非現実的な例え話である。

 ギロロは想像力がたくましい訳でも、かといって乏しい訳でもない。何となくでぼんやりと想像をしたあと、武器を置いて腕を組んだ。


「…そうだな、まず、お前のところに行くかもな」

「おや、それは何で?」

「お前なら、何かしら策がありそうだからだ。ただ何もせずにいるとは考えられん」

「なるほどー。じゃあ俺がお手上げって言ったら?」

「…原因を何とか出来んことがお前にあるのか?」

「クッ、ギロロ先輩はたまに俺を買いかぶりますけど、さすがに出来ないこともありますぜェ」

「買いかぶってはいない。お前が泣き寝入りするとは考えてないだけだ。…まあでもそうだな、お前でもどうしようもないなら……ケロロに指示を仰ぐんじゃないか?」

「…確かにあの人、たまにとんでもない発想で予想外なことして結局最後は結果オーライな感じっスもんね」

「彼奴の強運は俺も驚く。まあ運も実力のうちだな」

「クックッ。じゃあ隊長でもダメな時。本当に地球の最期だ、ってなったら、ギロロ先輩は誰の側にいる?」

「待て、その前に…日向家や、他の地球人たちの脱出は?」

「うーん、まあ選択肢としてあってもいいが、日向家の連中や他の奴等は地球から離れるって発想は無いと思うんスよね。俺たちだけは脱出、って選択肢もあるけど」

「地球人は助からない前提か」


 そこで一度、会話は途切れる。

 例えば。助からない地球。残ることを選べば己も消えてしまうらしい。今回は何とも難しい例え話だ。おそらく深い意味はないのだろう、とギロロは思考を巡らせる。

 助けたいほどに情を抱いた人が複数居た。見捨てるには少々深く関わりすぎた。それに、ただ終わるのを黙って見ていられる性分ではない。


「…誰かの側に、は、もしかしたら居ないかもしれん」

「居ない?」

「どういう状況下で地球が爆発するのかは分からんが、俺はその原因を叩きに行くと思う」

「……どうにもならないのを分かってて無駄死にするって?」

「じっとしているのは苦手だからな。見捨てるのも出来んし、そのまま本星におめおめ帰ることも出来まい。…まァ、こうは言うがケロロや他の奴等も似たようなことをするんじゃないのか」

「クッ、悪いが俺は見捨てる側っスよ」

「それでも良いんじゃないのか。深入りして情を持った俺が侵略者としては失格だ。貴様の判断は模範的だろうな」

「……」

「まあ、とはいえ何だかんだ貴様もこっち側につくだろうし…結果として隣には小隊の奴等の誰かが居るんじゃないのか」

「…ククッ」

「まだ先の未来があるタママやお前には、生き延びていてほしいところだがな」

「…あー、まあじゃあやっぱり俺が地球を何とかしますかね」

「そうだな、それがいいな。お前ならやれるだろう」

「ククッ無理難題は俄然燃えちまうぜェ〜」


 クックッと笑いながらクルルは前を向いた。恐らくこの話は終わりなのだろう。
 ギロロは再び銃の整備を始めながら、その黄色い背中に問い掛けた。


「そういうお前はどうなんだ?」


 振り返り、返ってきた答えは。


「そっスね、そしたらきっと、俺はアンタの死に様を笑いに行くんじゃねぇのかなァ」

「……聞いた俺がバカだった」

「ククッ」








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