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□今すぐ会いたい
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それはどうも、いつも後手に回ることを選んでいるらしかった。
ギロロは夏美からのチョコを受け取りながら、ここには居ない黄色をぼんやり想い描く。
2月某日のそれは、恋人であったり好きな相手が居ればおのずと期待してしまうイベントで、例に漏れずギロロもその一人だった。
しかし例年と違うのは、欲しい相手がたった今目の前にいてチョコをくれた少女ではなく、ここ数カ月前に恋人というものになった──クルル曹長。
もちろん夏美からのチョコは心変わりをしたとはいえ意識をしないはずも無く、純粋に夏美から貰えたことにぶっきらぼうな態度を取りながらもとても喜ばしい事だとギロロは思っていた。
けれども、である。
去年のクリスマス。毎年日向家で行うプレゼント交換とは他に、柄にも無くクルルに用意したプレゼントがあった。渡すタイミングを探りながらさり気ない目配せで二人きりになろうとした。
しかし結果は、失敗。
クルルと二人きりになるはずが夏美と二人きりになり、その間にクルルはさっさと自室に戻って寝てしまったのである。しかもクルルはプレゼント交換で当たったプレゼントを嬉しそうに見せびらかしてきたので、結局ギロロが用意していたプレゼントは渡せないまま。
悲しきかな、渡すタイミングを失ったそれは今もテントに眠っている。
タイミングが悪いのは仕方が無いと今までの経験上諦めもついた──のだが、やはり最近どうもおかしいとギロロは思うようになっていた。
除夜の鐘が鳴るその日。
毎年帰省しないはずのクルルが、その日ラボに居なかった。
同じく帰省しないで残ったギロロはクルルと過ごすことを考えていたのだが、肝心のクルルがどこかへ出掛けていたのである。結局一番最初の挨拶をしたのは夏美で、クルルと顔を合わせたのはすっかり年が明けて幾日かしてからだった。
イベント事以外でも、とにかくクルルとは以前より会話をする回数が極端に減っているような、そんな感覚もある。
訓練の合間にラボを訪ねても誰も居ない。朝起きて一番の挨拶に向かっても、夏美と先に顔を合わすのでコレも成功しない。夜寝る前もやっぱりクルルのラボは固く閉じられていて挨拶もなく、夏美と顔を合わしてその日を終わる。
あまりにも、不自然だった。前ではクルルと顔を合わすことが出来たタイミングでも、今は必要以上の接点が無い。その代わりに何故か夏美とは急に顔を合わせる日が増えた。これは流石のギロロも、おかしいと思ったのである。
恋人になったはずだと、ギロロも次第に不安になった。確かにあの日、これでもかというくらい格好悪い醜態を曝しながら想いを告げれば、あのクルルがぼろぼろ泣きながら頷いたのだ。抱き締めもしたし、キスもした。夢じゃ無いのだと、クルルが泣きながら笑っていて、その顔に胸が苦しくなって、ずっと大事にしようと心に誓ったのだ。
忘れるはずが無い。夢でも妄想でも無い。
確かにあったあの日から、クルルは少しギロロを避けている。
否、正確に言うとクルルは、ギロロの一番を夏美にしたがっているのである。
クルルとの距離が一向に縮まらないまま、月日はあっという間に過ぎ去った。
恋人なら既に身体を重ねていてもおかしくないだろうが、ギロロとクルルはあの最初の1回きりのキス以来ずっと、まともに二人きりにすらなっていない。
もちろんタイミングを見てギロロも先に進もうとした。なのにどうにもうまくいかない。ギロロの性格的に、ロマンチックなこともスマートに決めることも出来なければ、そもそも恋愛事にはどうしていいのかサッパリだった。
それでも気持ちは冷めることは無く、寧ろ大きくなっていた。
時折目が合うと、クルルがへにゃりと笑う。それが胸を高鳴らせた。用事があるときは自らギロロにくっついて、それでいて頬をほんのり赤らめて少し上機嫌に用件を伝える。
先に進めないのはギロロ自身が少し奥手であったり、またそんな良い雰囲気の時に限って邪魔が入るのだからギロロとしても頭が痛い。
クルルもギロロが好きで、確かにそこに愛はあった。
それなのに何故。ギロロには分からなかった。
そんな時に、ギロロに一枚の便り。
「………特別要請?」
「そ。人手足りないからって、本部からギロロに。こーいうの好きっしょ?」
部屋に漂う少しきついシンナーのにおい。ギロロを呼び出したケロロは、ガンプラに塗装を施しながらギロロに声だけを投げ掛ける。
「まあいつまでかかるか分からないでありますからなあ…、どする?蹴る?」
「いつからだ?」
「準備が整ったならすぐにでもって。あ、やっぱ行く?」
「本部からの要請なら蹴るわけにもいかんだろう。明日には出立する」
「ゲロゲロ…じゃあ、久しく食えなくなる地球料理、今夜我輩の当番だからリクエスト聞いてやるでありますよ。何が良い?」
夏美殿じゃ無くてごみんね、なんて笑うケロロにギロロは特にコレといった反応を返すこと無く、ただ一言。
「カレーが良い」
クルルみたいなこと言うんでありますなあ、と、ケロロは少し驚いた顔をした。