□全て手の内
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 夏美にばかりデレデレするなと、クルルがボソリと言ったのを聞いたギロロは、とても嬉しそうに口元をゆがめていた。
 あいにくとクルルは背を向けていてその顔には気が付いてなかったが、ギロロはその顔を手で隠すようにしながら喜びに堪えている。

 ──嫉妬をした。あの自信家で冷静なクルルが、夏美ばかりを見るなと言う。
 不安になったのか。悔しいと思ったのか。どれでも良い。クルルが、己のことで悩んでいるというだけで気分が高揚する。

 これだからやめられないのだ。


「……クルル」
「…なに」
「お前は俺が夏美ばかりだと本当にそう思うのか?」
「……は?」


 やっと振り返ったクルルの顔は訝しげで、どこか少し拗ねているようにも見えた。その表情に、ギロロは言い知れぬ高揚感を抱く。


 己より年下の、上司で自信家な後輩は夏美のことになると途端に卑屈になる。夏美との距離が縮まって楽しそうにしていれば、夜中にコッソリ泣いているのだ。手を出されないことに不安になりながらも、それでいて俺をまだ好きだとクルルは慕う。

 そんな普段とは違う健気な姿が、ギロロにとってはたまらなく愛しいのだ。

 手を繋ぐだけで真っ赤になって、俯きながら嬉しそうな顔をする。抱き締めれば身体を硬直させ震えながら、抱き締め返すことに戸惑いながら困ったように鳴く。
 抱き締め返せば良いのに、臆病なクルルはそれが出来ない。クルル自身その先に進みたいと思いながらも、手を出さない俺にただ寂しげに笑ったり、ラボで一人「…俺が男だから」と夜に泣いているのも、ギロロのためにと手料理をそれとなく持って来ては、食べるギロロの言葉を待ってるのも、全部が愛おしい。

 そんなクルルが、ついに言葉にしたということは、いよいよ合図だ。寂しいというサインだ。限界が来て、もう別れようと言い出す手前だ。


 ギロロは、コレを待っていた。

 勿論別れたいわけではないし離す気なんて毛頭無い。

 ──ギロロが狙っていたのは、弱りきったクルル。


「……クルル、そこに横になれ」
「は?……こう?」


 素直に従って横になるクルルに内心ほくそ笑むと、ギロロは素早く覆い被さった。

 驚いたクルルを見下ろしながらギロロはくつくつと咽を鳴らして笑い、一瞬でクルルの両腕を片手でまとめ上げてしまう。戸惑うクルルはギロロにおずおずと声を掛けた。


「…ギロロ先輩…?」
「……クルル」


 愛おしげに頬を撫でれば、クルルの顔は一気に朱に染まる。慣れない距離感にクルルが小さく鳴いて、戸惑いを浮かべた。

 そんなクルルにゆっくりと口付ける。びく、と震えて固まったクルルのその唇を吸い上げ舌でこじ開けると、また身体が震えたようだった。

 伝わる心拍数に、ギロロも気分が高まる。

 夢中になってキスを繰り返せば、クルルも舌を絡めようと必死に応えようとした。艶めかしい声が、吐息が二人の脳を刺激する。
 ギロロはついにクルルの腕を解放して、掴んでいたその手でクルルの身体をするすると撫で上げた。急に触れられたクルルは反射的にギロロの腕を掴んだが、ギロロはその手に力があまり込められていないのに気付くとやめることなくクルルの胸辺りを弄り始める。
 普段隠れている胸の突起が、ふっくらと顔を出した。
 桃色に色付くそれを指で刺激すれば、クルルが脚をもどかしそうにこすり始める。


「んっ、はあっ…!」


 苦しくなったのか、キスの途中で顔をそらしつつ与えられる刺激に身体を震わせるクルルのその顔に、ギロロは興奮を覚えた。誘われるままに胸の突起にしゃぶり付き、執拗に捏ね回してクルルの快楽を仰ぐ。


「あっ…!せ、…せんぱいっ…?ぁあ…っ」


 ふっくらとした胸の突起は愛撫によって赤く色付いていき、その愛撫のどさくさに紛れ肌に赤い痕もソッと残した。
 クルルの脚の付け根に手を触れれば、より一層ビクついて期待に濡れた目を向ける。


「……せんぱい…」
「…クルル」


 優しく唇を啄みながら、ゆっくりとキスを深めていく。ゆるゆると動くクルルの腰に、ギロロもこすり合わせるようにして腰を押し付けるとクルルの口からは甘い声が漏れた。
 もっと、と舌っ足らずに囁かれて、ギロロはたまらずクルルの脚を大きく広げて窪みに指を滑らせる。


 不意に、日向家から夏美の声がした。


 組み敷いたクルルはハッと我に返ったように顔を青ざめ、みるみるうちに泣き出しそうに顔をゆがめる。

 勿論これも、計算の内。

 動かなくなったギロロの顔から目をそらし、クルルはしがみついていた手をふるふると震わせた。

 泣くまいとするクルルの心は、思考は。


「………クルル、どうしてほしい?」


 自信家で、いつも不敵に笑っているようなクルルが今、不安でぐずぐずに崩れそうになりながらギロロにしがみついている。

 普段のプライドも、今は見えない。

 クルルは問い掛けに、はくはくと口を開閉しながらギロロを見つめた。
 何かを言おうとするクルルは、泣かないようにするのが精いっぱいのようで、そんな様にギロロはゾクゾクと言い知れぬ何かに満たされる。


 そして、やっと紡がれた言葉は、震えていて。


「…俺を、愛して…」


 ギロロはにい、と口元を歪める。

 クルルが、あのクルルが、ただ一人のギロロという男に捨てられるのを恐れているその事実に、ギロロの心は幸福感で満たされた。


(そうだ、もっと、…もっと俺に依存しろ)


 ギロロは震えるクルルの唇を舐めて、再び深く口付ける。

 縋るように背に回されたクルルの腕。密着させた肌。


「……クルル」


 名前を呼べばホッとしたように、嬉しそうにするクルル。

 それでも不安が拭えないのか、手は震えていた。

 夏美の声が遠ざかる。

 テントには荒い息づかいと、肌のぶつかる音と甘い声。




 今のクルルにギロロが必要になるくらいに、もっと、もっと。



 そうしてもっと、俺が居なければ生きられなくなれば良い。





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