□今すぐ見たい
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 暖かい温もりに包まれた。自分の顔は情け無く涙に濡れていて、心臓も激しく脈打っている。

 好きだ、と優しく紡がれた言葉に胸がいっぱいで上手く笑えない。

 こんなに幸せなことがあって良いのか。夢では無いのか。

 ──…この人の、この先の未来や評価、世間体を俺が壊して良いのだろうか。

 手放したくないくせに、この人との未来が全く見えてこない。そもそもこんな予定じゃ無かったんだ。ギロロ先輩は好いた女と家庭を持って幸せになるべきであって、その幸せに自分が居てはいけない話なのに──…どうして俺を選んだの。

 きっといつか先輩も目が覚めるはず。だって今までの一番があの女だったんだから。

 だから今まで通り。
 今まで通りに、あの女を一番にしてやればいい。

 朝の挨拶も、夜の挨拶も、いろんな一番を全部譲るから、だから、…………代わりに、僅かな時間二人きりになることだけは許してほしい。俺だって今のまま、先輩の隣に居たいんだ。今だけでいいから、特別な関係を堪能させてほしい。

 少しくらいガラにも無く甘えさせて。その目で俺のことを見て。

 名前を優しく呼ばれるとくすぐったかった。
 人知れず手を繋いでくれて、嬉しかった。

 特別なのだとじんわり教えられていくと、どうしても欲が出てしまう。

 このままでよかったのに。俺のことを気の迷いだったって、女と結婚するんだって、そう言う先輩のことを幸せにしてやりたいのに。

 どうか俺から離れないで。俺の側に居て。

 俺だって今のまま、あんたの一番になりたいよ。













「…は?カレー?」
「そ。ギロロが出発前に食いたいって」


 だらだらと過ごしていた夕暮れ時。クルルはケロロの部屋で自前のパソコンを弄る手を止めて顔を上げた。対するケロロはエプロンをクルルに手渡したままやれやれと肩をすくめている。

 今朝方に本部からギロロに当てての要請を受けたことはクルルを介していたため知っていて、ギロロの性分から恐らく出立は今夜だろうとも予測はしていた。
 その予想は見事的中していて、相変わらずだなぁなんて笑っていたところで、ケロロが予想もしていないことを口にしたのだ。


「ギロロがカレー食いたいってリクエストしたんであります。で、まあカレーってことならクルルかなって」
「……日向家の食事当番は隊長のはずだろ?」
「まあそうなんでありますが、クルルのカレーの方が美味いし」
「……日向姉の方が良いんじゃねぇの…」
「そりゃ夏美殿の手料理の方が喜ぶとは思うんでありますがなぁ。…さすがにこの前侵略のアレそれで日向家の労働に参加しなかったから今日替わってって言ったら我輩殴られそうだし…」
「…………」


 ぎゅう、と胸が痛みを訴えた。クルルは無意識に視線をうつむける。

 ここで夏美に頼んで夏美の手料理を食べさせた方が絶対に良い。
 俺が頼んできてやりましょうか。そう口に出したいのに、クルルの口からは出てこなかった。


 しばらく会えなくなる。この期間がどれくらいかも見当が付かない。

 その期間中に、ギロロの気持ちが変わってしまったら?
 もう自分ではなく、夏美の方が好きになっていたら?

 頭を冷やす期間は充分だ。離れるならなおさら、きっと。きっと。


「……半年、か。まあ長い方かねぇ」
「ゲロ?なにが?」


 なら、最後くらいは一番を貰って良いかい。


 出発前に食べる手料理が、俺のでも良いですか?







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