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□キミじゃ無いとダメな理由
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本当にいいのか。
そう尋ねる声は、至って真剣なものだった。
尋ねられたクルルは、真っ直ぐ見つめ返し、もちろんだと頷く。
そんなクルルに、ギロロは一度目を伏せ、それからゆっくり念を押すように言葉を並べた。
俺はお前と同じ時間を生きる事は出来ないかもしれない。
戦場で命を落とすこともあるだろう。年老いて死ぬのでも、俺が先に死ぬからお前を一人残していくことになる。
お前にはまだ未来があるんだ。俺の余生はお前にとって短いから、俺が死んだ後に他に伴侶を選んでやり直すことは可能だが、俺と同じ年になったときのお前が悔やむようなら考え直すべきだと思う。
お前の幸せはなんだ。俺と共に生きることはそんなに簡単な道じゃない。軍人という生き物がどういうものなのか、お前もよくわかっているはずだ。
言い聞かせるようなそれは、クルルには縋るような言葉にも聞こえた。
確かにこの人は一人で生きていくことが出来るだろう。でも、きっとこの先、この人はずっと一人だと思った。
確かに彼は侵略の地で、強さを持った一人の少女と出会い、その少女に対して熱い想いを心に秘めて彼女の為にと奮闘することが多かった。友人である幼なじみも、新しい後輩も、その地で知り得た小さなネコもいて、その毎日が彼を孤独から切り離し誰かが必ず側に居た。それは同じく自分にも当てはまることで、寂しさも虚しさも感じる機会は全く無かったように思う。
けれど違った。まず、彼は好いた女を守ることはあれども、伴侶として迎えようとはしなかった。そしてそんな彼女にも、友人である幼なじみにも、後輩にも、友となったネコにも、彼は一切弱っている姿を見せようとはしなかった。
心の拠り所を、頼る人を、彼は知らない。
この人は孤独を知っていて、その孤独から未だに抜け出せないで居るのだと、側に居たときに気が付いた。或いは自分と同じだったから、理解出来たのかもしれない。
彼は軍人としては恐らく見本のような人であることに違いなかった。心を殺して任務に忠実に生きる軍の犬。
彼を支えてくれる人は誰だ。否、この人はきっと思い出の中の人物たちを心に秘めて、想い出を心の糧にして生きていくのだ。
この先、過酷な任務や戦場で冷酷に振舞うことは出来るだろう。武器を手に、いくつもの命を奪うだろう。けれど彼は、守るために戦う人だから。本当は誰かが隣で支えてやらないと、心が死んでいく人だ。優しい本来の性格が災いして、心が壊れてしまう人だ。
母星からすれば英雄であろうとも、他の星から見れば脅威であり、殺人者である。それを彼は理解していて、その罪を背負いながら生きていく。
だからこそ、クルルはギロロが愛しいと思うのだ。
縋るような目をしているギロロに手を伸ばして、抱きしめる。
見捨てたりしない。ずっと傍で支えたい。あんたの隣に相応しいのは俺しかいないだろう?
恋人なんて甘いものは俺達には似合わないけれど、それでも俺はあんたに愛を誓えるよ。
あんたにとって俺が邪魔だというなら潔く諦める。忘れてくれて構わない。
ギロロは静かに息を吐き、クルルの体を抱きしめた。
好きだとは言われなかったが、代わりに短く、ああ、と聞こえた。
これがギロロの精いっぱいの応えであり、共に生きたいという肯定の仕方。
ず、と鼻をすする音がしたのは間違いじゃないだろう。
ああ、やはり愛しいな、とクルルは笑った。