□そもそも前から想ってた
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 来週、何か外せない予定はないか?と、やけに真面目な顔つきでギロロは言った。
 傍に居たモアと予定表を確認して、特に何もないぜとクルルは言う。

 まあ黒いウサギちゃんが何かしでかしたりヘビ女とかが来なければな、と笑うクルルに、「そうか」と頷いたギロロはやはり真面目な顔。
 侵略会議もマンネリ化、特に新しい作戦予定もなければ、そもそも隊長であるケロロが本部へ提出しなければならない大量の書類と格闘しているので、当分自室から出てくることはなくクルルには依頼されたものは特にない。
 その辺をついでに告げれば、おもむろに手渡されたのは白紙の休暇届だ。

「……なんだぁ?俺に提出しないで隊長に提出しなヨ」
「俺の分じゃなくお前の分だ。期間はこの三日間で指定する」
「は?俺?……ん〜?行き先がケロン星になってんだけど」
「そうだ。一緒に帰省する」
「ク?一緒にって…本部から呼び出しくらってましたっけ?」

 モアに目線を向ければ、話の流れで調べていたらしいモアが首を振る。
 本部からの通達及び、連絡をしてきそうなガルル小隊からもそのような連絡は一切ないようです、と告げられてクルルは首を傾げた。

「なにかあんの?」
「そうだ。これは極秘だからな」
「……極秘って、あんた宛に?俺がついて行っていいのかい、それ」
「構わん。モア、来週のこの三日間はクルルを連れて行く。お前はクルルの不在をしっかり守れよ」
「はいっ!てゆーか責任重大?」
「おいおい、任務の内容は?」
「行きの船で話す。俺からは以上だ。休暇届の提出、忘れるなよクルル」

 始終真剣な顔つきのままギロロは部屋を後にする。
 その背を、この時ばかりは引き止めるんだったと、一週間後のクルルは思った。







 地球を発ったのは、まだ薄暗い早朝であった。
 ケロン星と地球での季節に差異はないため、この日の二人は特に防寒具などは用意せずほとんど手ぶらの状態だ。
 ちなみにギロロについては、庭のテントを一式仕舞い込んでクルルのラボへと置いている。
 それについて少しだけ難色を示してみたが、ギロロは「持っていくほどのことでもないが、またいついたずらされるかわからん」と言って、セキュリティの強固なクルルのラボへと有無を言わさず押し込めた。

 愛用のノートパソコンやらタブレットだけを持ちながら、クルルは宇宙船の操縦席に座る。
 自動操縦にして、ケロン星に着くまでの時間を睡眠に当てることとした二人は、狭いコックピットの中で目を閉じた。

 証明も少し暗がりにして、ちょっとだけ相手の身じろぐ音なんかが耳に届くのが夜伽を連想させる。

 ああ、そういやまだ何のためにいくのか聞いてなかったなあ、と思いながらも睡魔に負けて、クルルは結局道中で聞くのをあきらめた。






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 久々に帰省した母星は、やはり時間が流れている分変化があった。
 出立する前にあった弁当屋がレストランになっていたり、女性隊員向けの店が増えていたりと、宇宙船の停留所はかなり様変わりしている。

 ほんの少し重いまぶたを開きながら、赤に引き連れられ久しぶりの故郷の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

 じめっとしていて、ケロン人の住みやすい湿度に保たれた星はやはり心地いい。
 単独行動が許されるなら久しぶりに行きたいところに行ってみようと思いながら、クルルは「なァ」と声をかけた。

「行き先は」
「まずは本部に顔を出す」
「ああ、手土産が露骨に多いのはご機嫌取りかい?」
「そうだな。侵略について著しい結果もしばらく残せていないし、本部にいる友人に口を利いてもらうつもりだ」
「本部に行くなら俺は上層部に寄らせてもらうぜェ。俺は俺で報告しなきゃならねーことがあるんでな。お友達にはヨロシク」

 ぴた、とギロロの足が止まる。
 それから土産袋を確認しながら、少しだけ難しそうな顔をした。

「……土産は足りるか?」
「クック、俺の方で用意してますからご心配なく」
「そうか。なら用が済んだらフリールームのケロン像前に来い」
「了解」

 そうしているうちに本部に着くと、帰還した兵士やこれから出撃の兵士などで溢れ返りずいぶんと混雑していた。
 気が立っている者もいれば緊張に竦んでいる者もいる。
 本部の一階部分、いわゆるフリールームにはモニターがあちこち設置されていて、そこでは演習の中継が行われていた。

 ギロロにとって、ここは馴染み深い場所である。
 突撃兵として多くの星を渡り歩いてきたギロロは、このフリールームに帰還するたびにホッと胸を撫で下ろしたものだ。
 地球に来てからは健康診断に訪れた時以来だろうか。

 本部への階層に着くまでその懐かしさに浸りながら、ギロロは知らず知らずに深く息を吐く。

 それじゃあ、というクルルの声に「ああ」とだけ返して、ギロロも目的の場所へと赴いた。






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 待ち合わせ場所に着いたのは、意外にもクルルの方が先であった。
 てっきり先に終わっているものと思って心持ち早歩きで来てみたのだが、指定された場所にギロロの姿はない。

 思い出話にでも花が咲いてるのだろうか、と、併設されているカフェにいるぜと連絡を入れ、コーヒーを飲みながら待つこと20分。

「クルル!」

 慌しく駆け寄ってきた赤色に、顔を上げる。
 何故だかこの数十分で随分疲労している様子のギロロはクルルの隣の椅子にどかりと座り、クルルがそっと差し出した飲みかけのコーヒーをぐいっとあおった。

 深く深く息を吐いた後、「まいった」と呟くギロロ。

「どうしたんスか」
「どうもこうも…職場見学だかなんだかの群れに捕まった」
「はァ。…あー、サイン?写真?」
「握手もだ。…途中で逃げてきたが、また捕まる前にここを出るぞ」
「クク、人気者はつらいねェ」
「行くぞ」
「行くってどこに」
「来ればわかる」

 またはぐらかすのかよ、と思いながらクルルは立ち上がる。
 飲み干したコーヒーのごみはギロロが片付けて、それからまるで軍の基地から逃げるようにして街へと繰り出した。

 空に張り巡らされた旗は侵略をした星の数。雲は星型以外にはなく、地球で言う太陽光を模した光源がケロン星を照らす。

 時刻は既にお昼を回ったところで、クルルもそろそろ腹が空いて来た頃だった。
 ギロロも同じくして空腹を感じているのか、街中を歩きながらちらりちらりと飲食店に目配せしている。

「あの店に入るぞ」
「ク?」

 ギロロが指したのは定食屋。街に並ぶ店が真新しいのに比べて、その店だけはしばらく外観が変わっていないのかどこか古めかしい。
 慣れたように入っていくギロロを見て察するに、ここはギロロの行きつけの店だったのだろう。
 「おう、久しぶり」なんていう会話を交わすギロロと店主をなんとなしに見つめて、なるほど、と知らなかった過去のギロロの情報を頭に記録しつつ、クルルは席に着く。
 唐突に店主に「見ない顔だな」などと話しかけられて、はあ、まあソウデスネ、などと曖昧な返答をすればギロロがすかさず小突く。
 それから「俺の後輩だ」と紹介に預かり、クルルは改めて名乗りながら挨拶を交わした。

 ギロロがご贔屓にするのも頷けるほど、それは量の多い定食であった。
 味も悪くなく、クルルの舌をも唸らせた。
 問題とするならその量にあり、クルルが残した分はギロロの胃に収まっている。

 食後にお茶を飲んで食休みをした後は、再びギロロに連れられて街を歩いた。

 道中でクルルの気になる店に入ってみたり、広場でやっていた大道芸に足を止めてみたりとゆったりとした時間を過ごしながら、それでも目的地は未だ不明のままギロロは歩く。


 そうしてようやっと着いた場所は、一軒の家であった。
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