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□嫌われたいのに愛される
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「クルル」
「!」
名前を呼ばれて、ハッとする。
随分と懐かしい夢を見た。
……思い出したくない、過去の夢。
「クルル?」
「…ギロロ先輩…」
「大丈夫か?」
優しく頭を撫でてくれる、先輩。
なにが、と思って問い掛けようとして、そういえば視界がぼやけてなにか頬が濡れていて。
ああ、泣いてたのか、なんて他人事みたいに思った。
「魘されていたようだから起こしたんだ。…すまん」
「いいえ〜?くくっ、ありがと先輩」
「いや…別に」
「…どんな夢か、とか、訊かねェんだ?」
「訊いたところではぐらかすんだろうが。…無理には訊かん。つらい夢なんだろうからな」
「……よく分かってんじゃん」
嫌われることに慣れてしまった自分。
愛されることは無くて、ただ寂しいと思っていたあの頃。
初めから期待しても無駄なんだって思ったから、最初から嫌われればつらくないって思ったから、あんたらには嫌がらせをしてきたのにさ。
それなのに、あんたは。
初めて俺と向き合って、叱ってくれた。
時々本気で怒らせても、嫌いだと口では言うくせに、必ず俺のことを気にかけてくれて、ぶっきらぼうに優しくしてくれて。
そんな優しさに、俺は初めて恋をした。
嫌われることが、初めて怖くて、たまらなくなった。
どうしていいか分からなくて、たくさんたくさん泣いたけど。
先輩は俺を、愛してくれた。
ひねくれ者の俺のひねくれた愛情に真摯に答えて、俺のために泣いたり笑ったり、時には俺を喜ばせようとしてくれたり。
嬉しかった。
そんな人、初めてだったから。
初めてをたくさんたくさんくれた先輩にまた、俺は恋をした。
世界で一番、先輩が好き。
初めて、こんな気持ちになった。
「……ギロロ先輩」
「ん?」
「……好きだぜェ…」
伝えたくてたまらない、俺の気持ち。
もう、本気の好きだなんて、自分の口からは言わないし、言われないと思ってたのに。
「…なっどっどどっどうしたクルルっ!?」
「クククッ、可愛い恋人からの愛の告白じゃないですかァ。ギロロ先輩、愛してるぜェ」
「くっクルルっ」
真っ赤になって固まった先輩に抱き付けば、更に真っ赤になって慌てふためく先輩。
いちいち面白い反応の出来る人だなと笑いながら、抱きつく腕に力を込める。
そうしたら小さく深呼吸したのが聞こえて、直ぐに先輩が優しく抱き締めてくれた。
「…俺も…クルルが好きだ。大好きだ」
「……ん」
「…クルル…」
「くくっ…俺、抱き締められると落ち着くー」
「そう、か。俺も…お前を抱き締めると、落ち着く」
「クククッ!んじゃ毎日してくれて良いんだぜェ?」
「……クルル」
「ん?」
「俺は、どこにも行かないからな」
「……は?」
言ってる意味が分からないと、そう思って顔を見ようとしたのに、強く抱き締める先輩にそれは叶わなかった。
「…先輩?」
「俺はこの先ずっと、お前と居る。お前だけを愛すと誓う」
「え、ちょっと?」
「だからもう、泣くな。俺がお前を守るから」
「…!」
ああひょっとしたら先輩は、気付いてたのかもしれねえな。
夢のことも俺の過去も。
……本当、優しいよな、あんた。
「……先輩」
「なんだ」
「…今くらいは、泣いていいっしょ?」
「……ああ。いいぞ」
ありがと、先輩。
愛されたいのに嫌われる 嫌われたいのに愛される
「必ずお前を幸せにするからな」
「…くくっ、期待してるぜェ先輩」