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□こんなに想われてるなんて知らなかった
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「…今、何と言った?」
クルルから告げられた言葉に、思わず声が震えた。
信じられなくて、信じたくなくて、腕を伸ばしてクルルの両肩を掴む。
「クルル」
「だから言ったろ。…ケロロ小隊を今日限りで脱退、俺は本部に戻る。アンタらの監視をする上層部の役につくんだ、つまりアンタらの上司になる」
「そんな」
「これは命令だ。本部から来た、直属の命令にゃ逆らえねェだろ?」
…頭が痛い。
なんだって急に、クルルが。
そりゃあコイツの技術力や頭脳は本当に凄い。降格にされたからとは言え、元は本部の一員だ。
上の奴らも欲しがるのも分かるが、このままでは地球侵略に支障が出る。
クルル無しで地球侵略など、今よりもっと難しくなるだろうから。
「(いや違う、そうじゃない)」
クルルが、俺から離れてしまう。
上層部に、本部に戻ったらもう、会う機会も少なくなって、触れることすらままならない。
嫌だ、そんなのは嫌だ。
「取り消せないのかその命令は」
「無茶言うな。…今頃隊長にも連絡が行ってるだろうよ」
「…そんな、いくら何でも急すぎる」
「………急じゃねえよ、前々から言われてた」
「…!?」
「俺が…言えなかっただけだ。……アンタの笑った顔、俺と居るときの優しい顔…見てたら、言えなかった。……今のアンタのそんな顔、見たくなかったんだよ」
「だが言ってくれればっ」
「言ったらアンタは本部相手に無茶しかねないだろ?…俺と居ても、今までみたいに笑ってくれなくなるし接し方も変わるだろ。…それは寂しいんだ」
「……ッ」
「別に会えなくなることはねェ。…モニター越しになるだろうけどな」
「…そんなのは嫌だ」
「……ギロロ先輩」
「嫌だクルル。…行くなっ、俺の側にいてくれ…!」
駄々をこねて、困らせるなんて初めてじゃないだろうか。
でも嫌なんだ。クルルが離れていくのは、こうして触れ合うことが出来なくなるのは。
俺はクルルに関して言えばわがままで欲張りだから、何としても一緒に居たい。
――ああ、俺はどうしてこんなに無力なんだろうか。
「……ギロロ先輩、俺が本部に行っても……浮気すんなよ」
「…っしない、する訳ないだろう!貴様こそ、俺以外を好きになるな、気を許すなっ」
「地球侵略、俺が居なくても出来るよな?アンタは直ぐ暴走するから、それだけ心配だ」
「必ず成功させる、だから俺を待っててくれ。必ずまたお前の隣に行くと約束するから」
「……待ってる。ずっと。…だからずっと、俺を好きでいてくれるかい、先輩」
クルルの目から、涙が零れ落ちる。
初めて見る、クルルの苦しそうに歪み、無理やり笑う泣いた顔。
「当たり前だ、愛してる。お前をずっと…俺がお前を一番愛してるんだ、忘れるな」
「忘れない。…ギロロ先輩、愛してる」
「……ッ」
クルルを抱き締めて、涙を流した。
この腕からクルルが離れる頃、それはもう別れを示す。
「……なあ、ギロロ先輩」
「なんだクルル」
「………俺、幸せだ。初めてだよ、アンタが何もかも」
「クルル」
「…………そろそろ時間だ」
離したくない。
まだ、いろいろ言いたいことがある、なのに出て来ないんだ。
強く抱き締めて、ゆっくり、名残惜しんで腕をゆるめる。
「……クク、なんて顔してんだ」
「…ッ」
「バーカ。……ごめんな、先輩。…有難う」
困ったように、けれど嬉しそうに笑ったクルルは、俺の手を取る。
「あのな…すげー言い辛いんだけどよ」
「なんだ」
「……今日…エイプリルフールなんだぜ?」
「…………は?」
「だから、な……本部帰投は…嘘、なんスよ」
「……う、そ…?」
…本部に行くのが、嘘だったのか?
まんまと騙されたということか、俺は、クルルに。
それは、つまり、クルルは…
「………あそこまでマジに捉えられると、思わなかったぜェ〜…」
「…行かないんだな」
「ク?」
「俺の側に、これからもずっと居るんだな?離れていかないんだな?」
「ん……そーっスよ。ギロロ先輩」
「…そう、か…そうか、良かった、クルル…っ」
騙されたという怒りはない。
不思議と沸き上がるものは安心しかないのだ。
クルルにならあり得る話だったから、本当に。
「……けど、よ」
「ん…、なんだクルル」
「……ギロロ先輩に言った気持ちは、嘘なんかじゃねェよ…本当の事だからな」
「…っクルル!」
「……クク、本当に…有難うな、ギロロ先輩。………愛してる」
こんなに想われてるなんて知らなかった
もしいつか、本当に離れ離れになる日が来ても
俺は必ずお前の側まで走っていくから