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□キミの隣にいる日を夢見て願ってた
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数日ほど、俺はまたぼんやりとしていた。
会議があっても上の空。
頭の中に浮かぶのはクルルばかりで、あの日の事が頭を駆ける。
クルルに好きな奴がいた。
まったく気付きもしなかったが、それは一体誰なのだろう。
地球人の女の誰か、だろうか。
いや、それよりも一番考えられるのはモアだ。
二人はよく一緒にいるし、クルルは何かとモアを気遣うことがあるし仕事もモアがいないとやりづらいとさえ言っていた気がする。
モアはケロロが好きなようだから、クルルは片想いをしているのか。
確かにクルルは家庭を持つ気はないと言っていた。
一人で居るのか。このまま。
それならば隣に居させてはくれないだろうか。
恋仲でなくていい。想いを告げたところで叶わないことくらい分かっている。
ただ仲間として、クルルに一番親しく近い存在として、側にいたい。
わがままだろうか。
立ち上がり、クルルのラボへと向かった。
あの日以来何となく近寄って居なかったラボ。
クルルに好きだと言えなくなった。
それは、いつか来るだろうクルルの未来が汚れてしまいそうだと思ったから。
俺の気持ちは告げない。
だが、気持ちはきっと無くならないままだ。
ラボの入り口は俺が来ると自然と開く。
中に入って奥に進めばクルルが居て、俺が近寄るとクルルは椅子から降りて側に来た。
「…何か用かい?」
「いや。…あれから、どうだ。本部で何か無かったか」
「特に何もねェよ。あの人がうまいこと丸めてくれたみたいだ」
「……そうか」
「侵略にゃ、支障はないぜ」
……何だろうか。
クルルと会話をしているというのに、壁を感じる気がする。
こんなに近いのに、遠くにいるようだ。
クルルは俺を見ている。俺もクルルを見ている。
なのに視線は交わらない。
「……なあ、ギロロ先輩」
「なんだ」
「俺が泣いたら、あんたならどうする?」
「…は?」
「……分かんねえ、もう、どうすりゃいいか分かんねえよ…」
「おっ、おい!?」
ぼろぼろと、急に泣き始めたクルル。
その姿は見たことがないくらい弱々しいもので、驚きのあまり目を丸くした。
何があったのかまったく分からないが、ただ気付いたらクルルに手を伸ばして抱き締めてしまっていた。
腕の中のクルルが、びくりと固まる。
やってしまった、だが、今更離せない。
「……だ、い…じょうぶ、か」
「………」
「…………クルル」
細い身体だ。これで軍人などと笑わせる。
俺が守る。俺が側で、こいつを守ってやる。
泣きたいなら泣けばいい。俺が側に居る。
理由は話さなくても良いから、側にいさせてくれないか。
「なあ……俺…好きな人、居るって言ったろ…?」
「…っ…ああ、そうだな」
「……先輩は夏美を好きでいるの、つらくねーの?」
「…は、なっ、夏美っ?ちょ、ちょっと待て、俺は夏美が好きな訳じゃない!」
「く?」
「俺はお前がっ、……っ!」
しまった、と思ってももう遅い。
まずい。これは、さすがにいくら何でも。
「あ、いや…あの、その…」
どう弁解するべきだ、いや、真実ではあるが、これは、違う。
クルルの身体を引き離そうとして腕を緩めたら、クルルが俺の背に腕を回した。
驚いて固まると、小さな声がした。
「……俺はお前が、何」
「え、あ、いや」
「………言わなきゃ泣く」
「な……ッ、き、聞いてから、後悔するなよ!」
クルルの身体を今一度抱き締める。
今度は強く、想いをぶつけるように。
「お、…俺はお前が…クルルが」
「……」
震えた声。情けない。
後には引けなくなった、もう、言うだけだ。
言えば、もう、終わりだ。
「……………………好きだ」
「……!」
…言ってしまった。ああ、クルルはどう思ったか。
「気持ち悪いかクルル。仲間としてじゃない…本気なんだ、お前のことが好きなんだ。……クルル」
心臓がうるさい。怖くても震えている。
除隊もやむなしだろうかと考えていた矢先に、クルルが呟いた。
「……う、そだ…そんな…俺を嫌いなんじゃ…」
「…好きだ」
「……く、う…うぅっ」
「あ、おいっ、泣くな、クルル!だ、大丈夫だ、別になにがしたいとかどうしたいとかそんな事は考えてないっ!」
「…ぅく、考えて、ろよ、阿呆」
「いや、なっ…は?」
「……何したっていい…何か、していい………」
「な、なに、クルル…っ」
何が何だか分からないまま、クルルの肩を押す。
涙を流し紅潮した頬。
クルルの表情にドキリとして、また思わず固まってしまった。
「…っ、す、まん」
「……くく……クククッ」
「な、なにがおかしいんだ」
「…いや…嬉しくて、ね」
「へ」
「クク、分からないかねェ……」
そう言ったクルルは笑って、俺にまた寄りかかる。
ぼぼっと体温が熱くなってしまい、体が硬直した。
「ク、クククルックル、クルル!?」
「……俺は家庭は持たねえ。もし誰かを好きになっても、その先は望まねえ。俺は一人で居る方が楽だし、誰も俺についてこれやしねえんだ」
「…く、クルル」
「けどな、俺…ギロロ先輩を好きになって、初めて、一人で居たくなくなっちまった」
「……!?な、っな!」
「何とか嫌いになろうとした、だから見合いだってした。あんたを忘れちまいたかった。一人で居れない俺は、弱くて駄目だ。あんたに優しくされる度に嬉しくて、あんたが誰かに優しくしてるのを見る度に苦しかった」
「クルル」
「…でも、ダメだった。あんたを嫌いになれなかった。…あんたに好かれる自信なんてちっとも無かった…それなのに俺の悩み事、一発で解決しちまうんだもんな」
「…クルル」
「……好きでいて、良いんだよな?諦めなくて、良いんだよな…?」
再び泣き始めたらしいクルルをたまらず抱き締めた。
クルルの気持ちには驚いたが、それよりも嬉しくて、泣きたくなった。
「…クルル、俺は、お前が見合いをするのが嫌だった、破棄になって喜んでいたんだ。なのにお前が、好きな奴が居ると言うから気が気でなかった」
「うるせえ、あん時はあんたが悪ィんだろ」
「なっ、なんだそれはっ!お前が見合いするとか言うから嫌々ながら俺は協力してやったんだぞっ!」
「耳元で騒ぐなっての」
クルルが腕を突っぱね、俺と視線を絡ませた。
どきどきと脈打つ心臓。
ゆっくりクルルとキスをして、惜しむように唇を離す。
「…何もしねえんじゃなかったんスか」
「何かしていいんじゃなかったのか」
「……くっく」
クルルが笑う。
見たことがないくらいの、柔らかい笑みだ。
再び柔らかい唇に口付けて、俺は幸せを噛み締める事にした。
キミの隣にいる日を夢見て願ってた
これは夢じゃないかとキミが笑った
夢ではないと俺が笑った