□小さないのち
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 体調に変化があると気がついたのは、吐き気が頻繁に起こるようになってからだ。

 ほんの少し腹に違和感があって、自分のからだをスキャンし異常を調べ上げた。


 まさか、と声にならない言葉が出たのは、検査結果を見てからだった。


 男同士の交わり、出来るはずのないもの。

 ただ検査にはしっかりその表記がされている。


 お腹を触り、心臓が飛び跳ね口から出るような気がした。


 慌てて再検査、そうしてやはり出る結果には同じくして記載があり、詳しく調べれば間違いなくあの人のものも。


 ――子どもが出来たなど、誰に言えるだろうか。


 困惑した、それから次第に、腹を撫でていたら愛しくなった。

 ただそれは、ほんの数分。


 頭に浮かんだあの人の顔。

 拒絶した顔。言葉。


 思わず震えた、そうして、らしくもなく涙を流す。


 産んであげられやしないんだ、どうして俺に宿ってしまったんだ、もっとしあわせな道があったはずなのに。


 子どもが出来たなど、あの人には絶対に言えない。

 男同士、子どものリスクが無いからこそ続いた行為。知られたらもう二度と触れてもらえなくなる。


 涙が止まらないのは何故。
 悲しいのは何故。苦しい、悔しい。



 腹の子供を殺す薬。作った錠剤はひどく大きく冷たく見えた。

 掴む手は震え、口は開こうとしない。


 これを飲むと、腹の子は消える。
 飲まなければ、腹の子は生きる。


 生かしてはいけない、しあわせにしてやれないから。
 どのみち腹の子はバレたら死ぬ、殺される。


 意を決し、薬を飲んだ。

 涙が出た。


 けれどこれで良かったんだ、せっかく宿ってくれたのにごめん、俺はしあわせにしてやれない。


 ごめん。






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