□小さないのち
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「クルル、どうしたんだ」


 会議室に二人、集まりの悪い連中を待ちながらひたすらノパソをいじっていたときだ。

 真正面から声がして、顔を上げたらギロロ先輩。


「最近顔色が悪い。…なにかあったのか?」

「…何スか急に」

「お前らしくないぞ」

「ク?…具体的にはどうらしくないって?」

「泣きそうな顔だ」


 そういうあんたは顰めっ面だな、なんて笑えばますます顔をしかめられた。


「何か隠してないか」

「別に」

「また本部の事で無茶をしてるんじゃないだろうな?」

「クック、本部に目立った動きはねェよ安心しな」

「………そうか」


 未だ何か言いたげな、でもタイミングよく集まり出す面々に先輩は口を閉じる。


 …隠し事か。
 してるよ、あんたに言えないこと。


 腹をさすった。ほんの少しだけ大きくなった。

 腹の子を降ろすつもりが、やっぱり降ろせなかった俺。

 薬は吐き出してしまった、バカなことをと毎晩泣く。



 その日の夜、ギロロ先輩が来た。

 苛立っていた訳でもないのに優しく抱かれた。


 なあ、言ってしまったら楽だろうか。あんたの子どもを産みたいと言ったら許してくれるだろうか。

 …やはり言わずに、こっそり産んでも良いだろうか。

 あんたとの子どもが嬉しいと思った俺は、もうこの子を殺す勇気が無くなっちまったよ。

 人に愛されたことのない俺が、この子にどうやって愛を教えられるだろうか。

 この子はしあわせだろうか。俺の元に来てしまったこの子は、笑ってくれるだろうか。





 明くる日に侵略作戦が始まった。

 それらはやはり失敗に終わった。

 爆発した兵器、腹の子を護るようにして飛ばされた。
 体が痛い、腹の子は無事だろうか。
 変な体勢になったまま動けなくなってしまった。
 こんな時につわりが来る。思いっきり吐き出した。

 視界の端に映る赤い足。


「クルルっ!?どうした、大丈夫かっ!?」


 慌てた様子のギロロ先輩に抱き起こされた、変なうめき声が出た。


「ゲロヤバッ!クルル、もろに食らっちゃったでありますか!?」

「急いで救護室へっ!てゆーか治療開始っ?」


 慌ただしい。なあ、俺の体はいいから、腹の子は無事か?

 ――ああでも、知られたらまずい。


「クルル、しっかりしろ、大丈夫だからな」


 …聞いたこと無い優しい声。

 腕の中が心地良くて、縋りたくなる。


 あんたの子どもが居るんだよ、そう言えたらどんなに楽か。

 家族ってなんだろうな。
 俺も教えて貰ってないけど、教えてあげられたらいいな。





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