□愛を分かち合えなかった二人
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 クルルを初めて抱いたのは、今となっては酷い理由だった。


 性欲処理にと、あまり珍しくもない行為に誘われたときは戸惑ったのだが、いつも生意気な後輩を組み敷いて泣かせるのは気分が良かった。

 相手は男だ、クルルだ、遠慮してやることなんかない。そう開き直りもした。罪悪感もなかった。

 地球で何より大切な人を見つけた。燃えるように心が熱く、侵略がおろそかになる事もあった。

 苛立ったとき、溜まったとき、クルルを見るとからだが熱くなる。クルルを抱くと全てが解消される。

 暴行のような行為にも、クルルは応えていた。拒絶することもなく、ただ俺の名前を呼んで宥めるみたいに。そんなクルルに癒されていた、そう気付いた時には、自分のしていることがただの暴力であるとハッとしてショックだった。

 クルルの顔色が悪いときもあった。何があったのかは聞けなかったが、クルルが向けた視線が気になって仕方なくて、それから何故かクルルの事を考える事が多くなり気が付いたら目で追うようになった。

 そうすると今まで気付かなかったクルルが見えてきて、ますます目を離せなくて。

 ケロロとクルルが笑い合う度に胸がモヤモヤとした。睦実がクルルと居るのを見ても、クルルがアンゴル娘と居ても、クルルが自分以外と話しているのが、だんだん気に食わなくなった。

 それでも自分が出来るのは何もない。身体しか繋がりがない。抱くことでしか、そのモヤモヤを解消出来なかった。抱いてるときはクルルも俺だけを見るから。俺の名前を呼ぶから。

 感情の名前を知ったのは、クルルが長期間不在にしているときだった。

 クルルの所在が分からず、心配してケロロに聞いた答えに、ガンと頭を殴られた気がした。

 ――クルルなら、大切な人に会うとかで本星に行ったでありますよ

 タイセツナヒト。そんな人がいたのか、と。
 俺の名前を呼んでいたクルルが、頭をよぎる。

 泣きたくなった。クルルに会いたくてたまらなくて、慰めてほしくなった。大丈夫だと、また名前を呼んでほしくなった。

 ああ、好きなのか。ストンと胸に落ちた答えは、酷く苦いものだった。

 後に病院に勤める旧友からクルルの話を聞いてゾッとした。手術。極秘の手術。何をされた。相手に何を?

 帰ったクルルを見て、カッとなった。嫉妬と、怒りと、悲しみがぐちゃぐちゃで。手酷く抱いてしまった。
 それでも初めて腕を回してくれた嬉しさと驚きでクルルを見たとき、行為とは裏腹に怯えるようなクルルに胸が痛くなった。怖がらせた。俺はこんなことしか出来ないのだと、思い知った。

 クルルがタマゴを隠し持っていたのを見たときも、嫉妬した。
 親のように慈しむようなクルルに抱かれるタマゴが羨ましかった。

 手に触れたタマゴは、何故か酷くいとおしく感じたのだが、今にして思えばそういう事だったのだろう。

 泣きそうなクルルは苦手だ。俺には泣かせることしか出来ないと思い知らされるから。
 だからクルルに、自分との子供が出来たらどうするかと聞かれたときは驚いた。

 嬉しかった。
 そんな未来があったなら、クルルの隣に居ていいのなら。

 あの日の言葉の続きはケロロに邪魔をされて言えなかったが、それを今。


 ベッドに横たえたクルルに、キスをした。ギロロは今までの事をクルルにポツポツと話す。

 その度に真っ赤になるクルルは甘くなる空気に茶々を入れて誤魔化そうとしたのだが、ギロロはそれを許さずにクルルの唇を塞いだ。


「…せんぱい…」

「……今までは、お前を無理に抱いていた。だから、もう無理矢理にはしたくない」

「………」

「お前が好きなんだ」


 ほろりと、クルルの目から涙が溢れた。くしゃくしゃの顔で泣くクルルはお世辞にも可愛いとは言えないが、それでもギロロには愛しく感じる。


「…クルル」

「…っ、俺は、あんたが、ただの性欲処理って分かってたから、怖くて言えなかった、ガキのリスクないから抱いてたのに、ガキが出来たら、俺なんかもう、もう…っ」

「…不安にさせたな、本当に悪かった。それで言えなかったんだな」

「…ガキも殺されると思った」

「さっ、流石にそこまではしないぞ!?」

「……そんくらい怖かった」

「うっ…すまん、本当に…」

「…俺ら、擦れ違わなきゃ…ガキも産まれたかな、ちゃんと」


 無意識にお腹を撫でるクルル。二度とない奇跡の命。

 つられるようにクルルの手に触れたギロロは、ふとクルルの顔をきょとんと見つめた。


「擦れ違い…?俺がお前を好きなだけだろう」

「ク?……ん?」

「いやまあ、子供が出来たらお前が嫌でも俺が側にいることに」

「おい、ちょい待ち」

「なんだ」


 ……ああ、頭が痛い。

 これだけ尽くして、泣いて。一切気付いてないと言うのかこの男は。


「………嘘だろ…あんた何も分かってないんだな…」

「なっ、なんだっ!?」

「…なんで俺があんたに身体を無抵抗で差し出してると思ってんだ、あ?誰にでも提供する身体じゃないっスよ、あんたにだけ開いてんだよ股を」

「お、お前そんな言い方」

「誰が好きでもない男のガキ痛い思いして生もうとしたり守ろうとすんだ、考えろ馬鹿」

「っ!」

「……あんた俺のこと何にも分かってねぇじゃん」


 拗ねたようなクルルに、ギロロは目を見開く。
 あ、とか、う、とか声を出し、赤くなったり青くなったりを繰り返して。


「す、すまん、本当に!悪かった!」

「……」

「そ、んな、好いてくれてるなんて思いもしなくて、だな…」

「………」

「…すまん…俺は本当に…」

「………ククッ」

「…クルル?」

「…ばーか。…もういいっすよ。言葉にしないと分からねぇのはお互い様だからな…」

「…クルル」

「愛してるぜェ、ギロロ先輩」

「………っ」


 ボンッと真っ赤になったギロロに、クルルはくつくつと笑ってあたふたするギロロの唇に己の唇を合わせる。

 思えば自分からするのは初めてだ。

 ギロロの手が首の下に回る。グッと合わさった唇は舌によって開けられて絡められた。
 重なっていた手は、胸を撫でる。


「あっ…ぅん…っ」

「…っは、…ふ」


 ゆるりと撫でる手にぞくぞくした。撫で、ぐにぐにと揉まれる胸。
 びくびくと震えるクルルに気分をよくしたのか、ギロロは唇を離してその胸に唇を落とす。


「…っわ、せんぱい…っ!?」

「なんだ」

「な、だって…なんで胸なんか…っ」

「……嫌か?」

「…いや、ってか…今までしてねぇじゃん…」


 愛撫だなんて、らしくない。

 愛し合ってるみたいで恥ずかしい。いや、愛し合ってるのは今はもう事実になったが。

 ギロロは強く胸を吸った。赤い痕が白い首下を彩る。


「…これからは、こうしてお前に触れていきたい。お前がどこが好きでどんな反応をするか、知らないからな」

「しっ、知らなくていいっつの!今までみたいに慣らして突っ込めば…っ」

「俺はお前をもっと感じたいんだ」

「へっ、変態!オッサン!」

「フンッなんとでもいえ」

「ふざけ……ふあっ」


 脇腹を滑る手。胸を吸う口。

 慣れない快楽にクルルの身体は震える。


「…やぁ、せんぱい…っ」

「……その顔は逆効果じゃないか」

「んっ…あ…っ」

「クルル…可愛い」

「…ば、か…っ」


 真っ赤になるクルル。

 思えばこんな風に会話をするのも初めてだ。

 今までとは違う。関係も変わった。もう、行為の果ては虚しくない。


 重なる身体は、いつもより熱く火照っていた。

















 ケロン星のとある墓の前。
 赤色と黄色い宇宙のカエル。

 墓には、真新しく彫られた名前がひとつ。




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