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□逃げ腰だったのはどっちだ
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飛び交う電子音。煌々と光るモニター。基本的に来訪者は少ないこのラボで、クルルは椅子に座りながらただ溜め息をついた。
「ふざけんな」
一人溢したその呟きに反応する者は誰もいない。
クルルは頭を抱えた。イライラとしながら、舌打ちもする。
「俺が、なんで、…なんで」
モニターに赤い人影。チラリと映っただけなのに、クルルは直ぐにそちらに気をとられた。
赤い人がどこに向かうのか、何をするのか。
目で追って、モニターでも追って。
ギロロが、夏美の為の芋を焼き始めたのを見てからようやく、クルルはハッとした。
「…クソッ」
キーボードを叩いて、モニターを消す。暗くなった空間。
「……」
諦めたはずだった。地球に来る前から抱いた感情は、地球に来て再会してから見た彼に見事に打ち砕かれた。だから諦めようと決めて、今まで感情を押し殺して。
消えたと思った。感情が、もう何を見ても動かなくなっていたから。
それなのに、なのに。
「……触るな、触るな、触るな…っ」
触れたからだは熱かった、感情が膨れた、交わった視線が甘く切なく感じた。
たったそれだけ。それだけで、押し殺してた感情は抑えきれなくなった。
抑えていた分、悲しくもなった。
見ている彼の視線には、彼の想う人がいる。分かっていたのに、今まで平気でいられたはずだったのに、今はもう泣き出してしまいそうで。
考えれば考えるだけ辛くなる。一人でいるとどうしても。
今日ケロロは日向家の家事で忙しない。パソコンを開いてメールを出した。宛先は睦実。頭脳戦でもして気を紛らすのがちょうどいい。
直ぐに返った内容は、暇だから大丈夫、というものだった。一先ずこれでいい。だが日向家の長女が睦実を見れば接待をし出すだろうし、それを見た彼が―――…。
「……俺が行くか」
外出の準備をする。それとなく覗いた庭先には、緑色と赤色。
「ちょっと出掛けてくるぜェ」
「およっ、クルル?どこ行くでありますか?」
「クックッ…ナイショ」
チラリと赤を見れば、少しムッとした顔。まあ、いつも通りと言えばいつも通りだ。
踵を返そうとして、グッと腕を捕まれ止められる。
……ああ、熱い。
「おい貴様、また何か企んでるんじゃないだろうな。俺もついて…」
「来なくていいっスよ。別に先輩の出る幕じゃありませんぜ…」
「クルル」
掴まれた腕を振り払う。熱い。熱い。
「…じゃ、何かあればヨロシク…」
逃げるみたいに、その場をあとにする。掴まれたところを無意識に触ったりして。…馬鹿みたいだ。こんな女々しい自分なんてらしくない。いらない。
……もう一度、この気持ちを殺せるだろうか。