□一日遅れのクリスマス
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 翌日。ギロロはテントの中で少しそわそわとした。

 毎年この時間帯になるとクルルが自分を訪ねてきては、渡しそびれたプレゼントを見付ける。その流れ。訪ねる理由は様々だったが、今年は何だろうか。


 しかしいくら待ってもクルルは現れなかった。

 …まあ確かに毎年来る用事もないか、と少し拍子抜けもした。


 ギロロは手に包みを持って、地下へと降りる。今日の夕飯はカレーだ、と決まっているかのようにカレーを食べる準備もした。


 ラボに行くと珍しく静かだった。

 椅子にふんぞり返るクルルも居ない。ラボに来る前に開発室や指令室なども覗いたが、そこにクルルは居なかった。

 てっきりラボに居ると思っていたギロロはまたしても拍子抜けした。しかしふと、気配を感じた。


「…押し入れ?」


 そこが寝床であるのは知っている。ということは昼寝でもしているのか。

 起こすかどうか迷って、取り敢えずゆっくり襖を開けてみた。

 登って見ると、案の定クルルが寝息を立てていたが、ギロロは首をかしげる。

 クルルが抱き抱えるそれに見覚えがあった。昨日のプレゼント交換で用意したマフラー。確かサブローに当たったはずだ。それを何故クルルが持っている。

 トレードは禁止とされていたはずだが、よほど欲しかったのだろうか。何が気に入ったのだろう。微笑ましく思った。


 もぞ、とクルルが身動ぐ。ゆっくり目を開けたのか、緩い動作で延びをしながら目を擦る。
 その手を制した。


「赤くなるぞ、擦るな」

「クっ…クひっ!?な、えっ」


 声をかけられようやくギロロの存在に気付いたらしいクルルが、すっとんきょうな声を出す。

 あまり見られないクルルの様子に、ギロロは少し笑った。


「…何か用っスか?」

「ああ、これをやろうと思って」

「……ク?」

「毎年やってるだろう。クリスマスプレゼントだ」

「…!え、な、んで」


 驚いた顔。こういう表情もあまり見ない。なかなか受け取らないクルルの膝元に置くと、小さく開けていい?と聞かれたので頷く。


「…ポンチョ…?」

「寒いと地下に籠りっきりだからな。たまには外の空気を吸え」

「………本当に、いいんスか」

「なんだ、いつも遠慮なく持ってくくせに」

「…それもそっスね…」


 表情の固いクルルは、ゆるゆると押し入れから降りた。ポンチョとマフラーを抱き抱えて。

 ギロロもそれに合わせて降りて、クルルの隣に立つ。今夜はなんのカレーだろうか、と呑気なことを考えていたギロロは、何となくクルルを見る。

 そして先ほどのクルルと同じくらい、驚いた。


「ど、どうしたっ?」

「…っ」


 真っ赤な顔したクルルが、ぼろぼろと泣いている。声を圧し殺すようなそれは、なんだか見ていて胸が痛くなった。

 泣いているクルルは初めて見る。ギロロはこういう時の対処はわからなかった。クルルに限らず泣いている相手にどう接していいのかが分からない。こういう場合に、幼なじみ二人が率先して何とかしてくれるのがお決まりだったが、今はギロロしか居なかった。

 子供でもない、ましてや泣くと予想もしない相手。

 ギロロは戸惑い、ただクルルの頭を抱き寄せた。


「な、なんで泣いている。どうした、気に入らなかったのか?」


 そんな理由でクルルが泣くとはもちろんギロロは思っていない。なるべく優しく問い掛けようとした結果として、そういう言葉が出たのである。

 クルルは、遠慮がちにしがみついてきた。


「…ク…っう、うぅ」

「ゆ、ゆっくりでいいぞ、どうした、大丈夫か?」


 何かを言いたいのだろう、それは分かった。クルルの背中に手を回して、あやすように叩いてやる。
 初めて触れた体温は、少し低い。足元には落ちたマフラーとポンチョ。クルルを優しくあやしながら、ギロロは伝わる鼓動に戸惑った。

 どきどきと忙しない。いつも余裕そうなクルルからは想像がつかない鼓動。よもや病気か、と一瞬冷や汗をかいた。

 けれどクルルが少し長く息を吐いて、呼吸を落ち着かせて何かを言おうとしているのに気付くと、ギロロはなにも言えずただ言葉を待った。


「……ああ、俺、死ぬのかな」


 聞こえた言葉に、ギロロはさっと顔を青くした。

 待て、そんな大病なんて聞いていないぞ、と声をあげそうになるギロロに、クルルはぎゅっと強く抱き付いてくる。擦り寄る仕草に、なんだか胸が痛かった。


「く、クルル」

「すみませんね……気が動転した…嬉しかったから、びっくりしちまった」

「…大丈夫なのか?」

「……へーきっスよ…まさか貰えると思わなかったから」

「は…クリスマスプレゼントか?なんだ、大袈裟なやつだな、おどろかすな!」

「だからすみませんって。…先輩にとっちゃ何でもないかもしれないっスけどね、俺にとっちゃ死んでもいいくらい嬉しいんだぜェ〜」


 ニコニコと、でもまだ泣きそうな顔したクルルは、マフラーとポンチョを拾い上げる。ぎゅっと大事そうに、嬉しそうに抱き締める様子に悪い気はしない。


「変な奴だな、よほどこのポンチョが欲しかったのか?」

「ククッ…別に?ポンチョじゃなくても、その辺の石でも、俺のためにって用意してくれたのなら何でも嬉しいっスよ」


 くくく、と上機嫌なクルルの目からまたぽろりと涙がこぼれた。

 そこまで嬉しいものなのか、とギロロは不思議に思いつつ、あげてよかったなとも思う。もしかしたらクルルにとって物を貰うという行為そのものが嬉しいものなのかもしれない、と一人納得した。可愛いところもあるじゃないか、などと勝手に和んだりもした。


「泣きすぎると腫れるぞ。冷やしたらどうだ」

「ん。なぁギロロ先輩。カレー食べる?」

「ああ」

「待ってな、いつもよりとびきり美味いの作ってやるから」


 涙は直ぐに止まったらしい。ポンチョやマフラーは押し入れに入れて、かわりにエプロンを引っ張り出す。
 毎年の恒例となりつつある流れに、ギロロは思わず笑った。


「クルル」

「ク?」

「来年もまたクリスマスにプレゼントをやる。だからお前もカレー、頼むぞ」

「…え」

「何がいいのか考えておけ」


 ぽかんとしたクルル。それからカッと顔を赤くして、直ぐにその顔をエプロンで覆った。


「…死んじゃう」

「大袈裟だな」

「……来年…楽しみにしてる、から」

「ああ」

「…ククッ」


 嬉しそうに笑ったクルルに、ギロロも胸が熱くなる。来年は何をねだられるのだろうか、なんて先のことを考えてわくわくした。

 当たり前に隣にいることを疑わず、ギロロは来年が待ち遠しくも感じた。















 二人だけの秘密のクリスマス








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クルルがマフラーを持ってたのはサブローに交渉したから。なっちにプレゼント渡せたギロロを見て、たとえ夏美の為のプレゼントでも、クルルはギロロから貰えればそれだけで良かったのに今年は何も残らないのが悲しくて、サブローから無理矢理奪い取りました。
ギロロはクルルの気持ちに気付いてないです、が、クルルにほだされて惹かれ始めてることにも気付いてないです。

来年には多分自覚して、再来年くらいに付き合う感じの二人。
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