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□例えばの話をしようか
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例えば、なんだけど。
「もし俺が突然除隊するってなったら、ギロロ先輩どうする?」
その日は水上訓練の日であった。
早々に体力切れで離脱したクルルが、ギロロの隣で寝そべりながら問い掛ける。
ギラギラと照りつく日差しにうんざりしながら、ギロロは突然の問いに顔をしかめた。
「どうっ、て…どうもしない」
「……送別会とかしてくんねーの?」
「ケロロの奴がするんじゃないのか?さすがに参加はするが」
「………」
訓練で疲れているのだろうか、クルルの顔は少しだけ暗いように感じた。拗ねている、ようにも見える。
そんな様子に思わず笑ったギロロを、クルルは不機嫌気味に見上げた。
「そんな顔をするな。その除隊がクルルの意思なら尊重するという意味だ」
「分かりにくい」
「まあ実際貴様が居なくなるとしたら侵略もままならんからな、頭がいたい」
「除隊するときは穴埋めにちゃんと隊員配置しますからご安心を」
「おい拗ねるな」
「拗ねてません」
「………」
プイ、と顔を背けたクルルは溜め息をつきとうとう背まで向けて丸くなってしまう。
ギロロはそんなクルルの様子に苦笑しながら、照れて言えなかった言葉を口にした。
「…もし除隊が決まったとしても、俺はお前のところに行って納得が行く答えを求めると思う」
「……納得?」
「どうしても除隊が必要なのか、とか…いくらでも残る選択肢はあるんじゃないのか、とか…まあ出世に関わるだとかそういう理由なら致し方無いだろうが、俺は多分怒るか戸惑うかのどちらかだろうな」
「…それはつまり、引き留めてくれるってことかい?」
「…お前がいないケロロ小隊は、なんだか味気無いからな」
顔が熱いのは日差しのせいだと、ギロロは誤魔化すように水を飲む。
クルルはギロロを見つめながら、今度は少し上機嫌になったらしくギロロの方へ距離を詰めた。ギロロはふい、と視線を逸らす。
「じゃあ、俺がもし本心じゃ除隊したくないって言ったら?」
「上の奴等に掛け合う」
「送別会は?」
「しない。必要ないだろう。お前はケロロ小隊として残す」
「ふぅん。ギロロ先輩、俺に居てほしいんだァ」
「…さっきからそう言ってるだろうが」
「顔真っ赤」
「日焼けただけだ」
「そっかな。ククッ、そっか」
すっかり機嫌が良くなったらしいクルルは、ギロロの飲み掛けのペットボトルに手を伸ばしそれを躊躇うことなく飲む。咎めることもなくギロロはただその様子に溜め息をついた。
そろそろ充分休んだだろう、とクルルを見ながら言えば、クルルは「例えば、」と続ける。
「俺がもし、先輩と居たいが為にサボっていたら?」
「………くだらん冗談を言っとらんでさっさと訓練に戻らんか!」
つめてえの、とクルルは笑った。