□キミじゃ無いとダメな理由
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 ギロロは定刻通りに目を覚ます。
 覚醒し始めたばかりの頭は、いつもより鈍くて瞼も重かった。はて、どこか体が気怠いような気がしたが、直ぐに思い出したかのように真横を見て、瞬間的に息を止めた。

 隣りに眠るのは、黄色を特徴とした後輩。否、昨日まで後輩だった、己の相棒。すよすよと寝ているあどけなさに、いつもの嫌みったらしい表情は覗えない。


 ──ああ、そうだ。昨日、思いを通わせたのだった。

 かねてより、ギロロは侵略先の少女に恋をしていた。その恋心に負けて何度となく侵略作戦は失敗に終わったことだろう。あまり考えると頭が痛い。
 勿論、今でも彼女を特別に想う。コレばかりは今すぐどうこう出来るほど、軽い気持ではないからだ。彼女の言動に一喜一憂し、彼女を守ると己の心に誓った。今更そう簡単に覆す事は出来ない。
 けれども、同じく大切にしたい存在が増えた。

 初めて顔を合わせた頃は全く夢にも思わなかった気持ちが、今は自分の思考を占領している。
 嫌な奴と自負している後輩が、今では誰よりも己に必要だと想うようになったのは最近のことでは無い。

 そんな彼から、昨日。


「……お前に懐かれていたなんて、ちっとも思わんかった」


 ついつい口に出してしまったが、言われた後輩は未だ夢の中である。
 少し布団にくるまるように縮こまっているのを見るに、どうやら少し寒いらしい。
 どうせもう起きるからとクルルに己の分の布団を掛けてやる。

 昨夜は随分と無理をさせた。
 慣れもしない女役を買って出てくれたクルルは、最初の方にとても痛がっていたように思う。
 口には出さないようにしてくれていたが、表情までは流石に隠せていなかったため、ギロロも焦りが走った。

 今すぐどうこうしなくてもいいんじゃないか。別に体が目当てな訳でも無いのだから、性急に事を進めなくても。
 けれどその問いはギロロの口からは出なかった。クルルが懸命に奉仕しようとするのが分かって、何も言えなかった。こんなところでクルルのプライドをへし折りたくなかった。

 結果的にギロロも欲に負けてクルルを散々啼かせたのだ。
 クルルは事の最中に糸が切れたように気絶してしまったし、正直やり過ぎたと冷や汗も搔いた。
 慌てて後処理をしてみたものの、かなり目に見えて焦っていたせいで完璧に終えたとは言えない。そもそも、ギロロ自身が誰かとこうして夜を共にして朝を迎えるようなことが今まで無かった事や、男を抱いた経験も少なかったせいで勝手が分からなかったというのもある。

 適度に体を拭いてシーツを取り替えたくらいで、そういえばクルルの中に吐き出してしまっていたモノまで気が回らなかった。今になって、腹に良くないことを知識として思い出す。
 避妊具くらいは用意しよう、とこれからのことを考えたときに、ボッと顔を赤らめた。


「い、いやいやいや、いや、待て、別に、今後もこんな…!」


 したくないかどうかで言えば勿論したいに決まってはいるけれど、これでは体目当てみたいじゃないか。否、断じて違う。自分はクルル自身が大事だと思って、側に置いておきたいと思って、とにかく彼が側にいてくれるならそれでいいのだ。
 たまに、そう、たまにでいいからこういう事をしてくれればいい。

 ああ、それにしても、昨夜の逢瀬は珍しいモノを見たような気がする。あのいつでも表情を崩すことの無いクルルが、自分にだけ見せる顔。
 痛がる顔の他に、頬を赤らめて艶めかしく唇から舌を覗かせ、眼鏡の奥では涙目になって、嬌声と共に名を紡ぐ。痛みに耐えようとしていた手は次第に快楽を逃すようにシーツの上を泳いで、最終的にはしがみついて耳元で熱い吐息を聞かせてくれた。汗ばんだ肌も、においも、少しも不快では無かった。

 恋人とか言う甘ったるい響きにこの先も慣れる気がしないが、一応、クルルとはもうそう言う関係なのだから、気が向いて誘ってくれれば、また。


「いやあ、でも先輩から誘ってくれたって構わねえんだぜェ?」
「!!!?」
「ククッ、おはようさん。声に漏れてたぜェ〜?」
「なっ…!?」


 いつの間に起きていたのだろうか。クルルはギロロの顔を見て、いつもの笑みを浮かべていた。

 ギロロはどこから声に出していたのか、と記憶を辿るが全くの無自覚だったために覚えていない。


「ク〜ックックック!真っ赤になって、かわいーじゃねーの」
「かっ、からかうな!」
「人の寝顔見てにやにやしたり顰めっ面したり、スケベなこと考えてたんでしょどーせ」
「しっ……しとらんわ!」
「どうだか。……あーでも、ん。まあなんか、悪い気はしないッスね」


 起き上がる気は無いらしいクルルは、もぞもぞと手を出してギロロの手に己の手を重ねた。ギロロはギョッとしてそれから顔を赤らめたが、クルルもぼんやりと頬に朱を交わせる。
 そんな様子に、ギロロの胸の奥がなんだかぎゅう、と苦しくなった。衝動的に触れたくなった。

 クルルはギロロの手をくいくいと引っ張った後、その手に頬を擦り寄せる。


「……先輩が、隣りに居る。夢じゃ無いんだなあ…」
「……ッ」


 胸がまた、苦しくなる。どきどきと心臓の跳ねる音が耳元でした。
 クルルの頬に触れる手が思わず震える。柔らかい頬だなどと思う余裕すら無いまま、グッとその顔を覗き込むように寄せていく。

 至近距離で目が合ったような気がした。そのまま、次の瞬間にはキスをしていた。
 啄むような軽いモノは直ぐに深くなって、お互いに舌を吸ったり絡ませ合う。体勢的にクルルに覆い被さるようなキスは、唾液がクルルに溜まるのだろう。含み切れてないモノがクルルの口の端から垂れていく。
 鼻に抜けるようなクルルの声にそそられてキスをしながら、次第に布団をはだけさせてその見えた胸元に手を添えた。
 軍人の男にしては薄く、どこか柔らかい感触は手に馴染みの無い感覚だ。ああでも、これからはこの感触が己の手に染みついていくんだろう。


「…ッ、すけべ……朝からなんかヤんねえッすよ」
「!…す、すまん、つい……!」
「……えっち」


 キスに濡れるクルルの唇の艶めかしさに、ギロロは息を詰まらせる。昨日まではただの後輩であった男に、こうも胸が熱くなるのは一夜のそれが原因だろうか。ああでも、本当は以前から目で追うようになっていたじゃないか。認めるのが癪だっただけだ。
 実際に手に入ったことで、欲が出てしまうのは男として仕方のないことだろう。

 そういえば、まだ言えてなかった言葉がある。


「……クルル」
「ん〜?」


 これから先、きっと今までみたいに意見が合わなくてぶつかるだろう。やり方が気に食わないと怒鳴るかもしれない。時には手が出てしまうことだって。
 でもそれでお前に愛想を尽かしたとか思わないでほしい。

 だって、お前は。


「……俺にとって、お前が必要だ。この先もずっと」
「………ク…」
「……好きだ、クルル」


 何だそれ、急に暑苦しい。そう笑おうとしたのだろうクルルの口は震えて、顔は真っ赤になっていた。












Fin
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