詩・短編
□純白の雪色に募るは
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浅く積もった雪に血液色の薔薇が散っている。
原因は、一歩進むごとに花弁をひとつずつ落としていく少女。
ふと、振り返って、まるで血痕のようなそれに楽しそうな笑みを浮かべる。
黒色の空には雪と同じように白い三日月が出ていた。
明日には、この薔薇のように肉片と血液が散る。
「私が、全部壊すの」
闇にとけゆく独り言。
家族も、村民も、放っておけば勝手に死ぬ老人も、この世に生を受けたばかりの赤ん坊も。
「みんな、消してあげるね」
大好きな赤色。綺麗な血の色。
その色に、この純白の雪さえ染めてあげる。
雪の夜の静寂に少女の鈴の音のような愛らしい笑い声が響く。
「醜い人間も、バラバラにしちゃえば綺麗だもの。そうするべきだわ」
最後の花弁が落ちた。
それに気付いた少女は茎と葉だけになった薔薇を見つめて呟く。
今までの様子とは一変した、冷たく、どこか悲しそうな響きで。
「駄目。赤くなくちゃ、嫌」
そして、プツリ、と。
柔らかくもハリのある肌に刺さる薔薇の刺。
少女の指先から血が滴った。
それを恍惚と見つめる少女の瞳には懐古の色。
「赤は、初めて貰ったリボンの色。甘酸っぱくて美味しい苺の色。優しいママの口紅の色。暖かい暖炉の火の色。だから好き」
笑みを浮かべている少女の瞳から、涙が一粒落ちた。
それを慌てて拭って、自分を落ち着かせるように言う。
「大丈夫。明日には全部失くなるわ。私を世界が必要としないのなら、私もこんな世界なんていらない。壊れちゃえばいいの」
一気に言い放って、深呼吸をして、また歩きだす少女。
雪に真っ赤な薔薇の花弁の代わりに真紅の血を滲ませて。
次の日に起きる、起こす惨劇を思い浮べながら…。
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