詩・短編

□独走
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世界が歪むイメージを見た。

ぐにゃりと自立性を無くし崩れ落ちる建造物だとか、ずるずると伸びる人の顔だとか。

地面がねじまがっているから立つことすら難しい。ただ、膝をつけばうねる土に飲み込まれてどこまでも沈んでいきそうだったから、必死で走ったり飛び跳ねたりして地面と触れている時間を短くした。

周りを見れば溶ける人々。どろどろと流れて淀んだ川に交じったりそこらに水溜まりを作ったり。

友達も親も溶けかけの顔で笑いながら言う。あがいても無駄よ。力を抜けば楽になれるの。

それでもわたしは抵抗した。走るのを止めない、飛べると信じる。壊れたくない、わたしを保つ。

形あるうちに示そう。たとえ誰がいなくなろうと。わたしがしたいようにしよう。幸せを見付ける。

最後にただ1人、逃げ延びた先で、君が笑っていてくれればいい。間違ってなかったよね。その問いに頷いてくれる君が。

いつから生きることがこんなにも厳しく苦しいことになったのか、あまりよく分からない。

それでもわたしにはわたしだけの光があるから、それに向かって進む。誰が反対しても、君に向かう。

脚が、胸が、身体の全てが、痛い、痛む、叫ぶ。疲れた、疲れているんだ、きっと。でも知らないフリをして。

わたしの目から零れた水滴。透明な、雫。落ちた瞬間、世界が元に戻る。無表情に聳えるビルも、虚ろな目をした人も。

それでも、何が起きても、わたしは足を進めた。

ただ1つの愛しい希望が、いつか手に入るように。



end...

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