詩・短編

□飛行心中
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あたしの足元には、空。



大嫌いだった紺のブレザーを放って、少しだけ軽量化。

なぁ、1番大事なことって何だと思う?

落ちることを知ることだよ。

いつかの台詞を思い返す。貴方はどうしてあんなに冷たい目をしていたの?

「落ちて、それから何をするか。それだけで全てが決まってしまうんだ。馬鹿みたいだろ。」

冷たくて、無色。あたしの知らない世界で貴方は何を見たのか。

話してくれなくても分かるほど、あたし頭良い子じゃないから。

だから貴方は、いつも手を引いて導いてくれていたのに。

「じゃあすごく高いところから落ちて、ぼろぼろで動けなくなったらゲームオーバーなのね」

ゆっくり頷く貴方。そんなことはないよ、って諭してほしい。

何だか胸の奥がざわざわして、あたしは貴方の腕にしがみつくのに、貴方はあたしを見てくれない。

「だから普通の人は練習するんだ。低いところからだんだん高度を上げて、落ちることの恐怖を知って、だから次は落ちないようにってやり直して、そのうち上手く飛べるようになる。」

その積み重ねってのが大事なんだってさ。結局そんなもんだよ。

そんなふうに言う貴方が悲しかった。

嘘みたいだ。あんな顔をする人、あたしの好きな貴方じゃない。

「だから俺はここで終わり。今まで落ちることを知らないで高度だけ上げて、挙げ句に墜落して壊れた。もう動かない。」

いやだった。怖かった。さみしくて、不安で。

貴方があんなことを言うなら、あたしはどうすればいいのか分からなくなってしまう。

あたしは貴方を信じてるから、お願いだから…。



「ねぇ、あたしと一緒に来て」

固い革靴も揃えて置く。

「1番大事なことは、自分を意識すること」

背の高い貴方の腕を引っぱって笑った。

「貴方を周りの枠に当て嵌めたら、貴方は死んじゃうの」

貴方はいつだって確かで、光でなくちゃダメだから。


「あたしは、貴方となら飛べるよ」


一歩踏み出して、空色。

軽い。どこまでも軽くて。

二人分の体温が世界の真ん中に浮かぶ。

貴方の思想があたしの背骨に羽根をくれたこと、覚えていて。




「昨日、豊島区の中学校で男女二人の生徒が屋上から転落するところが目撃されました。しかし、二人が地面に落ちた形跡はなく、その目撃を最後に姿を消しています。警察では二人は自殺目的で飛び降り、途中でどこかに引っ掛かったのではないかと見て調査を進めております。……」




end..

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