Fly up to the sky

□第十一話 光のその先
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目を逸らしていたのは

彼か、私か





光のその
なまえSIDE




辛らくて、思い出すことも怖くて。あふれ出てくる涙が流れないように耐えてることが、嫌で。思い出さないようにしてた。考えないようにしてた。だけど、無かった事には出来ない事実。初めて、自分から話したいと思った。知って欲しい。聞いて欲しい。そう思った人が、冬獅郎だった。

辛い記憶も、心の底から暗い感情になってあふれ出てくる涙も。冬獅郎が、そっと包んでくれた気がした。これが、人の温かさなんだって、嬉しさで涙が溢れた。今まで、我慢していた涙が流れ出て空っぽになったころ。ふたりを見守るように輝いていた夕日は消えて、黒に近い紺色の空には、白に似た月がひっそりと顔を出していた。

そんな夜の静けさとともに、月に誘われたように訪れた人物は、私が一番会いたくなかった人だった。







例の事件以来、会ってなかった。意識的に避けていた。蟹沢の好きだった彼の頬には、傷痕が残ってた。

『あいつらの思いを、全部背負って、護廷十三隊に行く。』

会ったときから、何故か私にライバル意識を燃やして、なにかと突っかかってきたあの人は、いつの間に、こんなにまっすぐな瞳をするようになったんだろう。あの時、一番近くに居たのは自分なのにって悔やまなかった訳が無いのに。助けることが出来なかった自分の無力さを一番悔やんだのは、彼だったのかもしれないのに。





ずっと前、蟹沢が留年の危機に陥った事があった。

「向いてない。」

そう言う蟹沢の頭を私はポコンと叩いて

「向いてる向いてないの話しじゃなくて、大事なのはやりたいって思う気持ちでしょ!?」

思いっきり、言っちゃった事もあったっけ。









「ふふふ。」


蟹沢のことを思い出して、こうして暖かな気持ちになれるなんて思っても見なかった。昨日まで、思い出すことさえ、辛かったのに。ゆっくりと、目を閉じると、昨日の夕日が、眩しくよみがえる。そっと、肩に触れると昨日の冬獅郎の温もりが、冬獅郎の優しさがまだ、残ってる気がした。



「なまえ!!」


声をかけられて振り向けば


「恋次!!」


私に向かって廊下を走ってくる恋次の姿があった。


「おっす。」


ぎこちない恋次の笑顔。


「おっす。」


私は、満面の笑顔で返す。冬獅郎に話した事で、私が落ち込んでないか心配して来てくれたのは一目瞭然だった。


「ありがとう、恋次。」
「いや、たいしたことねぇ…ってオレまだ何も言ってねぇよ!」
「あはははは。」


本当に、恋次は優しいなぁ。その優しさに、今までどれだけ甘えて、どれだけ救われてきたのか分からないよ。元気か?とか、大丈夫か?とか、そんなこと、恋次は言わない。顔を見に来てくれる。会いに来てくれる。


「私、元気だよ?」


その嬉しそうな笑顔が、なにより、私を元気にしてくれる。


「おう。」











「みよじなまえくん。」


恋次と廊下で話しをしていると何度か聞いたことのある声が聞こえた。振り向いたそこには、


「学院長。」


学院長の姿があった。学院長は恋次の様子を伺いながら、私に


「みよじくんに、話があるんだが。」


と、告げた。恋次が心配そうに私を見る。恋次、私は大丈夫だよ。


「私も、学院長にお話したいことがあったんです。」
「わかった。では学院長室で待っているよ。」
「はい。」



学院長が去った後、


「はぁ〜。緊張した。」


大きなため息を吐きながら、何でオレが緊張すんだよ。と、文句を言って恋次がその場にしゃがみこんだ。


「ってか、話ってなんだよ。」


そう言うと心配そうに私の顔を見上げる。私は、そんな恋次に笑顔で答える。



「昨日、檜佐木さんが来たよ。」
「え!?」


恋次は驚きの声を上げる。私は窓に肘を掛けて、青空を眺めた。


「あの時、本当はあの人に泣いて欲しかったの。」


私から、あの時の話をするのは始めてで。恋次も触れないようにしてくれていたから、少し、驚いた様子だったけど、そのまま、聞いてくれた。


「でもきっと、あの人は誰にも気づかれないように泣いてたんじゃないかって、そう思ったの。」
「………そっか。」
「うん。」


頬に触れる風が優しいのは、きっと、恋次と私の間に流れる空気が優しいからだと思った。あの夜の事をこんな風に話せるようになるなんて思ってもみなかったね。


「さて、学院長の所に行ってこようかな。」


外の空気を吸いながら、背筋を伸ばす。こんな前向きな気持ちで学院長のところに行くことができるのも、昨日の、冬獅郎の優しさが胸の中に残ってるから。昨日の檜佐木さんの後姿に、今までの恋次の優しさに、勇気をもらったから。私は、廊下を去っていく恋次の後ろ姿を呼び止めた。


「恋次!!心配してくれてありがとう!!私、大丈夫だから。ちゃんと前、向くから!!」


笑顔で手を振ったら、恋次も笑顔で返してくれた。もう、目を逸らさない。怖くたって、隣には大好きな人たちがいるから。自分に出来る、精一杯のことをやるだけ。

今度は私が、みんなにもらった優しさを届ける番。









to be continue




  

2007/0512


 

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