大体置き場。

□それは口実で、
2ページ/5ページ

 四月一日の「自分は良いのか」と言う問いに意味深に答えた百目鬼は、再び口を開いた四月一日の言葉を遮る様に、その唇に口付けた。

「ん……ふ」

 そのまま、唇を少し離しては角度を変え、何度も口付ける。
 そして、やっと離れた百目鬼の唇には、薄くリップクリームが塗られていた。

「これぐらいで、良いな」
「い……行き成り、何……っ!」
「『これ』で、おれの唇にも塗れた」
「そ、そうだけどっ! でもこれじゃ、おれの唇が筆にされたみたいじゃんか……」

 四月一日は、百目鬼にリップクリームを塗って貰った唇を尖らせて言う。
 百目鬼は、そんな四月一日を見て溜め息を一つ吐く。
 そして、何だよぅ、と拗ねた表情で斜め下を向いた四月一日の顔を仰向かせ、目を合わせる。

「最初はな、確かにリップクリームを塗ろうとしてたんだ。でもな」

 ここで、百目鬼は一旦言葉を切った。少しして、再び口を開く。

「さっきのあれは、リップクリームを塗ろうと言う目的でやったんじゃない。寧ろそれは口実で、どうでも良かった」
「こう、じつ……?」
「あぁ」
「な、何の?」

四月一日が問うと、百目鬼はさらりと答える。

「お前に、キスする為の」
「っ……!」

 百目鬼のその言葉に、四月一日は顔を赤くする。

「……べ、別に口実なんかなくたって、き、キス、したって良いじゃん……。おれ達、恋人同士、でしょ……? それにいつも、何もなくても、キスする癖にぃ……」
「……おれは、お前は口実が有った方が良いのかと思ってたんだがな……」
「え?」
「お前良く、キスした後目逸らすだろ」
「あ、あれはっ……!」
「だから、本当は、余りキスしたくないのかと思ってたんだが」
「そ、そんな、したくないのにわざわざする訳ないじゃん! ……あれは、そう言うんじゃなくて、その……、は、恥ずかしくて……」
「……恥ずかしい? おれしか見てないのに?」
「ど……っ、百目鬼だから、恥ずかしいのっ……!」
「おれだから……?」
「いっつも、キスされて、ぼぅっとなっちゃうし、立ってらんなくなったりするし……。キスされただけでそんな風になっちゃうなんて、恥ずかしい……」
「…………」

 再び俯いた四月一日にそう告げられた百目鬼は、半ば呆然としていた。が、それと同時に可愛いなぁ、と思って仕舞う。

「だって……おれ、変じゃない? もっと、それ以上の事されたならまだ別だけど、キスされただけなのに……そんな……」
「変じゃねぇよ。逆におれは嬉しいけどな」
「嬉しい?」

 顔を上げ、四月一日は聞き返す。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ