大体置き場。

□自嘲的恋愛ロマンチック
1ページ/2ページ


「……なあ、古泉」
 パチン、と音を立てて盤上の黒い駒を裏返しながら俺は口を開く。
「何です?」
 自分の駒が大量に取られるのを見ても顔色一つ変えず、いつも通り微笑んで古泉はこちらを向いた。因みにハルヒは校内の見回りとやらに出ていて、部室にはいない。あれだけ歩き回っているこの学校を今更見回った所で、何が見付かるのか甚だ疑問でならないが。
「もし俺がハルヒ以外の人間に恋愛感情を抱いたりすると、また以前みたいなことが起こるのか?」
「以前、と言うと、貴方と涼宮さんがこの世界から消えた時の話ですか?」
「他に何がある」
「そうですね、すみません。……彼女が貴方のその感情を知れば、十分に有り得ることだと思いますよ。ただ仲が良いだけでなく、明確な恋愛感情が存在していればもっと非道い事態、例えば世界の終わりなんてこともあるかも知れませんね」
 笑顔と同様にいつも通り丸っきり見当違いな場所に黒い駒を置き、白い駒を引っ繰り返しながから古泉は言った。その指を眺めながら話を聞いていた俺は、次に駒を置く場所を決めてから暫し古泉の言葉について考える。
「……俺が、ハルヒ以外の誰かを好きになるには、命懸けってことか」
「そう言うことですね。突き詰めて考えれば最終的に、互いを取るか世界を取るか、と言うことになるでしょう。……いいじゃないですか、ある意味とてもロマンチックですよ」
「お前っ、……」
 他人事だと思って適当なことを、と言いかけてその笑顔が非道く自嘲的なことに気付き、俺は思わず口を噤んだ。
「その相手は世界と貴方と言うそれこそ究極のような選択を迫られる訳です。ロマンチックではないですか、それこそ何処かのお話であるかのように、とても」
 珍しい表情に驚き、上手く声が出せなかった。こい、ずみ、と、掠れた声しか。
「……僕がその相手ならきっとどちらも選べずに逃げ出すか世界を選ぶでしょうね」
 臆病者ですから僕は、と、勢いに任せて言い切ってしまおうとするように呟いた古泉の真意を、俺は図れなかった。

(俺はこんなにもこんなにもお前が好きなのにお前の気持ちなんて全然解らないんだ)

 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ