大体置き場。
□世界と私と貴方
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ムゲンの所を飛び出して、二月が経った。
ゼロは密かに保存しておいた設計図のデータを基に、メガリバを作り始めていた。
ゼロは昔から、人間の醜さが大嫌いだった。それを感じさせる要素を持った人工物にも、非道い嫌悪感しか感じない。
一見綺麗な建前で鍍金をさした汚くて仕方のない本音が現れる瞬間を見たくないと思っている内に、建前の鍍金にすら吐き気を覚えるようになった。
そんな彼にとって――時々現実世界の所為で現れる黒い有毒な瘴気を除けば――反転世界は、理想そのものだった。
とても美しく、醜い人間など存在しない。
現実世界の汚いものだって壊してしまえる。
ゼロは、そんな鏡の向こう側の世界に魅せられ、研究にのめり込んで行った。
だが、反転世界の主であるギラティナの能力を手に入れる為二人で作り上げた設計図を、ムゲンはいとも簡単に抹消してしまった。
反転世界を、あの美しい世界を自分のものにしたい。
そんな思いを募らせていたゼロは、自分だけでメガリバを完成させる、と、研究所を出た。
メガリバを完成させギラティナの能力を手にし、反転世界を自分だけのものにする。
その為にあの場所をあの人の側を、離れた。戻れないし、戻る心算もない。
(――私の世界には、先生さえいれば良かった、筈なのに、)
本当は今でもそうなのかも知れない。結局自分は、あのおどけて優しい手を、声を、人を、求めている。きっといくら否定してみた所で、それは事実だ。
どうしてこんなことに、などと言うありがちな問いについて考えるのはとうにやめた。きっかけや理由など考えてみた所で、行き着く答えは大仰で瑣末だろう。
頬を伝い下へ落ちる涙に悲しみも想い出も溶かしてしまえたらと思いながらゼロは泣いた。