大体置き場。

□変わったのは、あの日から?
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『そう言うことなら、私とピーターの名前を貸してあげよう。今日から君はピーター・サムで、君はサー・ハンドルだ。いいかな?』
『……はい』

変わったのは、あの日から?

「……あのさ、フォールコン、」
「何だ?」
 支配人への挨拶を終えた二人は、宿舎の宛がわれた部屋へ向かっていた。
「僕も、サー・ハンドルって呼んで、いい?」
「……俺は、構わない」
「、あの、ごめん、ね」
「何で謝るんだ?」
 謝ったスチュアートに、フォールコンはさも不思議そうに言う。
「だって、僕のせい、で」
「お前のせいじゃない。俺が自分で頼んだんだから」
「でもっ、」
「いいから」
 フォールコンは半ば遮るように言うと、スチュアートが口を閉じたのを見て先を続ける。
「お前は何も悪くない。気にするな、絶対だ」
「う、う、ん」
 視線を合わせられ、強い口調で言い切られる。
「俺も、お前のことはピーター・サムって呼んだ方がいいか?」
「…………、その方、が、いい」

「解った。……じゃあ最後に一回だけ」
「、?」
 フォールコンが立ち止まったため、並んで歩いていたスチュアートも立ち止まる。
「名前……本名を、呼ばせて欲しい。後、呼んで欲しい。お前が納得するまで、本名で呼び合うのはこれで最後にするから。……駄目か?」
「ううん、いいよ」
 フォールコンがスチュアートの頬に手を当て、少し仰向かせてその瞳を覗き込んだ。
「スチュアート」
「……フォールコン、」
 二人は少しの間見つめ合っていたが、やがてフォールコンは頬に当てていた手を下ろした。
「行くか」
「……うん、そうだね」
 本名を名乗りたくないと言い出したのは自分なのに、どうしてこんなにも名残惜しいのだろうか。
 余りにも寂しくてフォールコンの手を取ると、彼は一瞬驚いた顔をしてから優しく微笑んで、その手を握り返してくれる。
「どうした?」
「ん、……、わかん、ない」
 寂しい、と言う本音を押し込めて、偽りを唇に乗せた。
「部屋に着くまで、な」
 フォールコンはそう言って、歩きやすいよう手を繋ぎ直す。
 スチュアートはその言葉に頷くと、手を引かれるまま歩き始めた。
 ――溢れた涙は、空気に溶かした。

 
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