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家庭科調理室は、美味しそうな甘い匂いと焦げ臭い嫌な匂いが混じり合い、何ともいえない感じになっていた。

今日の家庭科の授業は調理実習で、班ごとに分かれてクッキーやケーキを作っていたのだが、男女が分かれて班を作ってしまったのがまずかった。

男子だけで構成された班はほぼ全滅。

美味しそうだとかいう以前に、食べる事すら出来そうにない黒い物体が出来上がっていた。






あいつらはいったい何度のオーブンでクッキーを焼いたんだ?

ていうか、あそこまで焦げる前に何とかならなかったのか?

隣の班の悲惨な状況に呆気にとられていると、同じ班だった坂本が声をかけてきた。


「お前って意外性抜群の男だな」


「・・・なにが?」


言葉の意味が分からず尋ねると、坂本はキレイに焼き上がった俺たちの班のクッキーを指差した。


「だって、これ、多岐川が一人で作ったようなもんじゃん。オレ、お前と二年近く友達やってきたけどこんな特技があるとか初めて知ったぞ」


めちゃくちゃビックリしたと言いながら、焼き上がったクッキーを次々に口に運んでいる。

よくそんなに食べられるなぁと感心してしまう。

俺なんて味見で一つ食べただけで、甘さに胸焼けしてもう食べられないというのに。


俺は昔から姉貴のお菓子作りに付き合わされてきた。

俺自身は甘い物が苦手なのだが、嬉しくないことに料理べたの姉貴を手伝う内に大概のお菓子は作れるようになってしまったのだ。


「大した事じゃないよ」


大げさにウマイと連呼している坂本に呆れながら言う。


「そんな事ないって、まじで美味いもん。・・・・あっ!!ちょっと待ってろよ」


そう言うと何を思いついたのか、いきなり女子が集まっている方に走って行ってしまった。

何の前触れも無く坂本が俺に理解できないことをやりだすのはいつものことなので、その場から坂本の様子をうかがう。

するとすぐに坂本は戻ってきた。

可愛らしいラッピングの材料を持って。



「坂本、いきなり何してんの?」


クッキーを可愛らしい袋に詰めだした坂本に声をかける。


「何って、人にあげられる様にしてるんだよ。見たらわかるじゃん」


そう言いながら、男がやったとは思えないほど可愛くラッピングされたクッキーが出来上がった。



誰にあげるんだ?


不審な目で見ていると、坂本の手によって綺麗に包装されたクッキーを手渡された。


「はっ?意味わかんないんだけど」


突然の行動の意味がわからないでいると


「これ、お前の年下の彼氏にあげろよ。多岐川はいつもアイツのことを冷たく扱ってるんだから、こういう時に優しさを見せてやらないと呆れられて捨てられるぞ」


ニヤニヤと笑いながら、からかうような口ぶりで言われる。


「・・・っ!!バカなこと言ってんなよ!アイツとはそんなんじゃないって!」


一瞬反応が遅れてしまったが、渡された袋を突き返す。


俺には彼氏なんてものはいない。


「いいから、渡してあげろよ。絶対アイツはしっぽ振って喜ぶって」


何を言っても、坂本は「アイツにあげろ」の一点張りだ。


結局俺は坂本に押し付けられる形で、可愛く包装されたクッキーを持って帰るはめになってしまったのだった。



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