その他
□その顔は・・・
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ボクとトモ以外、誰もいない放課後の屋上。
広がる空はボクのどんよりした気持ちに反比例する様な見事な青空だ。
校庭をぼんやりと見下ろしているトモにそれとない感じで声をかける。
「トモさぁ・・・」
「ん?」
「一週間ぐらい前にさぁ・・・告られたでしょ?新井さんに」
ここ最近ずっと知りたかったけど知りたくなかった事をついに訊いてしまった。
弓道部の後輩から、トモが新井さんに告白されていた事を聞いた。
なんでも後輩が、部室にくるために校舎裏を通っていたら、たまたまそのシーンに出くわしたらしい。
きっと付き合う事にしたんだろうなぁと思う。
新井さんってすごく可愛い娘だから、トモと並んでも絵になるし・・・それにボクとは違って女の子だし・・・
いくらボクがトモの事を好きでも、女の子にはなれない。
「んーー・・・断わったけどね。」
「へぇ・・・・・・・って、えっ!!断ったの!?」
なんで!?
絶対にトモはOKしたんだと思ってた。
だってトモって、来るもの拒まず去るもの追わずで有名だ。
確かにここ2、3ヶ月は彼女がいなくて、ボクはずっとトモと一緒にいられたから嬉しかったけど。
可愛い娘に告られたらすぐに付き合うんだろうなって思ってたのに・・・
「アキちゃん、驚きすぎ」
あまりにも驚きすぎてトモを見たまま固まってしまったボクに、トモは大げさにため息を吐いてみせた。
「俺、遊びはもうやめたの。アキは気付いてなかったみたいだけど、最近誰とも付き合ってなかったのは相手がいなかったからじゃないよ。告られても断わるようにしてたんだ」
「・・・なんで??」
だって、意味がわかんない。
これまで節操なしだったくせに、いきなり遊びはやめただなんて。
「ん?理由はね〜〜、やっと好きな人に気持ちを伝える決心がついたから、かな?ぐずぐずしてて、横から奪われたら後悔するって思ったから」
いつもつかみ所の無い笑顔でふざけた感じの事ばっかり言ってるトモが今は雰囲気が違う。
つかみ所の無い笑顔はいつも通りだけど目がマジなんだ。
他の奴らは気付かないかもしれないけど俺にはわかる。
トモは本気だ。
「・・・好きな人?」
そんな相手がいるなんて事は聞いた事が無かった。
彼女を絶やす事の無かったトモだけど、その彼女達の事を本気で好きだと思っている風ではなかった。
本人もこれまでは遊びだったと言うぐらいだから、その娘達のうちの誰かが好きな人だというわけではないだろう。
まぁ、みんな可愛くて気の利く娘も多かったから気に入っていたとは思うんだけどさ。
「そう。高一の夏から、ずっと好きだった奴」
そして、好きな人がいると聞かされてショックを受けているボクに、トモはもう一つの爆弾を落とした。
高一の夏からずっと・・・・・、
ショックだった。
だって、ボクとトモがつるみだしたのは高一の秋だ。
ボクがトモの事を好きになったのも秋頃。
だけど、俺が好きになった頃には、トモには既に本気で好きな相手がいたんだ・・・
「・・・アキ?」
完璧に下を向いて黙り込んでしまったボクを不思議に思ったんだろう。
トモの声に心配の色が混じる。
「へぇ・・・そうだったんだ・・・」
でも俺にはそれを言うのが精一杯だった。
俯いた顔を上げることは、涙がこぼれてしまいそうで出来なかった。
「それだけしか言うことないの?」
そんな俺の顔をトモは体をかがめて覗き込もうとする。
それを俺は素早く避けた。
言うことって何?
親友の俺に頑張れとでも言って欲しいの?
でも、それは今の俺には出来そうにない。
今までだってトモに彼女が出来るたびに傷ついてきた。
でもそれと今回とは全然違う。
今までは彼女が出来てもトモは友達であるボクを優先してくれることが多かった。
それは,トモが相手の女の子と真剣につき合っていなかったからだ。
でも今回は、トモが一年近く告白する事さえ躊躇っていた相手だ。
きっと告白して、避けられたり嫌われたりするのが嫌だったんだろう。
それほど、失いたくない大切な人なんだ。
でも、トモの告白を断わる娘なんてそうそういないと思う。
そんな二人が付き合いだした時、俺はトモの幸せを喜んであげられるんだろうか。
好きな人が幸せになれるんだから喜んであげなきゃいけないと思うし、喜んであげたいと思う。
もともとボクの恋は絶対に叶うことの無いものだったんだから、今回のことはトモのことを諦めるいい機会なのかもしれない。
この思いを無かったことにすれば、トモが好きな人と付き合いだしても親友としてずっと一緒にいられるのだから・・・