その他
□ゼロ
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『智也へ
新しく彼氏ができたから、別れて』
いきなりのメールで、二ヶ月前に付き合いだしたばかりの彼女に別れを告げられた。
告白をしたのは俺の方だった。
元モデルだった母親のおかげで、俺はそれなりに整った顔をしているらしい。
身長は低い方ではないが、筋肉がつきにくい体質らしく、男らしいたくましさといったものは少々欠けている。
だが、その中性的な感じが良いのか、女の子には昔からモテた。
生徒会長になってからは、俺の事なんてろくに見ていないだろう女の子達が次々と告白してきた。
ただ、最近は告白されても俺はすべてを断ってきた。
好きな奴がいるのに、他の女の子と付き合うことは相手にとって失礼だと思い付き合えなかった。
香織に告白したのは、香織が佐々木のことを狙っているのを知ったからだ。
佐々木は俺より一学年下の後輩で、生徒会では副会長をしてくれている。
黒髪短髪の長身で、中学時代はバスケをしていたらしくきれいな筋肉をまとっていて、男の俺から見てもかなり格好いい。
そして俺の好きな人でもあった。
でも、俺は自分の気持ちを伝えるつもりは全くなかった。
俺はただ良い先輩として一緒にいれるだけで満足だと思っていた。
基本的に無愛想な男だが、俺にはそれなりに心を許してくれているのを感じていたから。
だが、それは甘い考えだったと、香織が佐々木に近づき始めた時に気付かされた。
香織はかなり可愛い部類に入る女だ。
そのぶん男のローテーションも激しかったが、それを感じさせない清純さがあった。
ネコをかぶるのがうまいという事だろう。
2人がしだいに仲良くなっていくのを近くで見ることに俺は耐えられなかった。
だから、香織が俺にも佐々木がいない所で色目を使ってきた時はチャンスだと思ったんだ。
本命は佐々木だったが、俺が相手でも良かったんだろう。
香織は付き合う男を自分の女の価値を示すアクセサリーの様に考えている感じがあったから。
俺もそのアクセサリーの基準をクリアしていたんだと思う。
俺は香織が俺でも良いと思っていると気付いた時に、彼女に告白する事を決めた。
香織のことなど全く愛してなどいなかったが、それ以上佐々木に近づかせない為に、彼女に精一杯の愛を囁いた。
香織が俺の告白に応じたときは、これでもう佐々木には手を出さないだろうと安心した。
そこまで強く佐々木を思っている自分に驚きもした。
俺は友人達にも呆れられるほど、見事に香織に夢中の男を演じ続けた、
そして、俺は香織と付き合う事で佐々木への想いを完全に隠してしまおうと思ったんだ。
その頃の俺は、いつ溢れ出してしまうかわからない自分の佐々木への想いに困っていた。
佐々木の前で普段の俺でいられているのかがわからなかった。
だから一生伝えてはいけない想いを封印する為にも、俺は香織の事を心から愛しているというフリをやり続けた。
だが、それももう終わりだ。
いきなり香織から振られるという事になったが、俺は別に大したショックは受けていない。
これから先、香織という目くらましがなくなったなかで、佐々木への想いを隠す事が出来るのか。
ただ、それだけが心配だった。
だが、香織から別れもメールが来た翌日、俺は学校で衝撃的な事を知る事となる。