佐野×京介
□桃缶
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俺から逃げて、決して捕まらないで欲しいと願うんだ・・・
桃缶
普段の騒がしさが少し弱まった様な気がする教室。
佐野の姿がないことに京介が気付いたのは、昼休みになってからだった。
普通に考えれば、毎日会って話をしているクラスメートの欠席に昼休みまで気付かないというのは酷い話なのかもしれないが、他のクラスメートが一ヵ月休んだり例えば学校を辞めたとしてもきっと自分は気付きはしないだろうという自信が京介にはあった。
昼休みであったとしても気付いたという事はそれだけ佐野の存在は特別だという事なのだ。
まぁ京介にしてみれば、それはあまり認めたくはない事実であるのだが。
どうして佐野が休みなのかということに全く興味はないし心配もしていない。
が、今日は新作のゲームを借りるはずだったと思いだし、京介は一人暮らしをしている佐野の家に行ってやることにした。
一人暮らしには広すぎるように思われるマンションの部屋は元々は家族で使うはずのものだったらしい。
しかし急な母親のアメリカへの転勤に伴い、カメラマンをしていた父親も母を追いかけて仕事の拠点をアメリカに移したのでいまは佐野が一人で住んでいる。
佐野の部屋の前に着くと京介はインターホンを押した。
部屋の中からは全く反応がなかったがインターホンを鳴らし続ける。
「うるせぇ・・・」
しばらくしてドアを開けた佐野は、髪が乱れ、くたびれた雰囲気をまとっていて、妙に男臭さを感じさせた。
普段から佐野は、その容姿とタラシな性格からモテる方ではある。
しかし、この姿を見せればまたファンが増えること間違いないだろう。
なんかムカツク・・・
風邪をこじらせたらしい佐野の姿を眺めながら、京介はなんとなくイラつきを感じた。
「お前、それだけのためにわざわざ来たの?」
何の遠慮も無くリビングまで上がってきたのだが、どうやら佐野は機嫌が悪いらしい。
まぁ、風邪で寝込んでいたところをゲームひとつのせいで叩き起こされたのだから当然と言えば当然なのだろうが。
京介の前で長い手足をだらりとソファになげだし、いかにも調子がわるそうにしている。
「悪かったな、まさかお前がここまで調子が悪いとは思ってなかったんだよ」
一応謝りはしたが、自分のその言葉に反省の色が全く現れていない事は京介にもわかっていた。
なかなかお目にかかれない弱りきった佐野を見るのが楽しくてならないのだから、思ってもいない反省が言葉に現れるはずが無い。
「っていうか、お前が風邪引くなんて何したんだよ」
ベッドに倒れ込んでいる佐野に近づきながら尋ねた。
「わかんねー、朝起きたらこうだったんだ」
佐野はもう返事をするのさえ億劫そうだ。
今にもソファの上で意識を飛ばしてしまいそうな様子に、さすがにやばそうだと感じた。
「お前、薬飲んだんだろうな」
「ああ」
周りを見渡しても薬らしき物は出ていなかったが、佐野は目を閉じたままで頷いた。
「なら、もうベッドにいけよ」
「ああ」
「俺は勝手に帰るからさ」
「ああ」
「こんなとこで寝たら、また悪くなるだろうが」
「ああ」
「おい、ちゃんと聞いてんのか」
「ああ」
「・・・お前、俺のこと好きだろう」
「ああ」
「って、全然聞いてねぇじゃん」
京介はため息を一つ吐き、ソファで寝てしまっても大丈夫な様に掛け布団を取りに行くため立ち上がったが、ソファから離れようすると後ろから佐野に腕を掴まれた。
「ちゃんと聞いてるよ」
何かと思い後ろを向くと佐野としっかりと目が合う。
「・・・黙れ、死ね」
京介は佐野の腕を振り落としてそのまま隣の部屋に向かった。