04/22の日記
10:38
メモっとけ メモっとけー(授業中)
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虹の出所には宝があるという話を聞いたことがあるだろうか?
幼かった頃の俺たちは、いつも虹が出るたびにそんな嘘なような話を信じて走って行ったものだった。
でも、いつも虹の出所にたどりつく前に、虹は消えてしまった。
遠いのだ。
手の届く位置でもなく、走って行ける距離でもなく。
海の上に虹が出来ていたときもあった。
地上にもつかず、空で途切れていたときもあった。
俺たち二人の届く場所じゃなくて、とても遠い遠い場所。
いつしかそんな話も忘れてしまい。
虹を追いかけることもなくなったけど、父と母は虹を見るたびにそんな話を思い出していたようだった。
親友もその話を知っていて、よく弟がからかわれていたものだ。
それでも、俺たち二人はまだその話を信じているような気がして仕方がなかった。
「おっ、虹だ」
雨上がりの昼過ぎ、ディランディ兄弟が家に遊びに来ていた。二人、こうして家に訪れるのは少し珍しいことだと思う。いつもはラフィスがディランディ兄弟の家に遊びに行き、その双子の弟であるライルに遊ばれて帰ってくるのだ。今回はどうやら逆のようで、二人が俺たちの家に遊びに来ていた。
ラフィスの部屋で、いろいろな話をしていたとき、ふとラフィスが窓から外を見たときに空には綺麗な虹が出来ていた。
「虹なんて久しぶりに見たな」
窓を開けて、少し身を乗り出してからその虹を見る。
「昔はよく遠くの空を見て、虹を探してたよな、セルジュ」
「懐かしい話だな」
「二人とも、いったい何の話なんだ?」
「俺と兄さんにも教えろよ」
「あー、実はな…」
幼いころに見たあの本は、今もこの家にある。もう古くてボロボロな絵本が。誰かにあげようかと思ったけれど、なんだかあげたくなくて大事に俺の部屋の本棚に置いてある。
昔の話をラフィスに任せ、俺は隣の自室にその本を取りに行く。大事に大事に置かれている本だけど、やっぱり少しずつボロボロになっていくその本を見ると、少しさみしい気持ちになった。
本棚の一番下の、一番右端に置かれている絵本を取りだし、優しく撫でながら絵本を開く。
この絵本一冊から、俺とラフィスは虹を見ては走り回っていたんだな。今思えば、ほんとに馬鹿みたいだ。でも、俺は追いかけたあの日々はとても大切な思い出の一つだ。たとえ誰かに馬鹿にされようと、それは俺とラフィスの思い出であり、大切なひとつの夢なんだ。
もう、話は終わっただろうか?
立ち上がち、隣のラフィスの部屋へと戻る。扉を開けてみれば、ライルが窓から身を乗り出して虹を見ていた。話は終わった、と思っていいのだろうか?
「その本か?」
ラフィスの隣に座っているロックオンが、俺の持っている一冊の絵本を指さす。
ボロボロだけど、と一言言ってからロックオンに渡す。二人はラフィスから聞いた話をどう思ったのだろうか?
「ボロボロだな」
「もうだいぶ古いしな」
「それでも、大事に扱ってきたんだな」
「俺とセルジュの、大事な本ですから」
ラフィスも、ロックオンが持っていた本を優しく撫でていた。
あぁ、俺とおんなじ思いなんだな。そう思わずにはいられない、優しい行為だった。
窓の外を見ていたライルも、絵本を持っているロックオンの傍に行き、
「兄さん、読んでよ」
「俺かよ」
「俺も読んでほしい」
「仕方ないな…」
なんでロックオンに本を読ませているのだろうか…。
少し苦笑いをこぼす。
―知ってる?虹の出所には宝物があるのよ?
虹が出ている空の下で、母親と男の子と女の子が空を見上げていた。そうして母親が言ったのは、俺たち二人も信じてしまったたった一言。二人の子どももそれを信じて、虹の元へと走り出す。
何度も何度も虹は消えて、宝は見つけることが出来なかった。でも、そんな二人の両親は、二人のために虹を作ってあげ、出所にはしっかりと宝物を埋めて、母が言った『虹の出所には宝がある』というその言葉を実現させたのだった。
子ども二人が思っていた宝物とはほど遠かったけれど、両親がくれた物は二人の宝物になった。
そんな物語だった。
「おしまい」
ロックオンが言った最後の言葉は、父を思わせるような一言で、少し吹き出してしまった。
「久しぶりにこの本読んだな…」
ポツリとこぼしたラフィスの一言に、自分もうなずいた。今は勉強も忙しく、俺の部屋の本棚もすっかり他の本が増えていた。絵本が少しずつ本棚の隅に移動していくのを見て、寂しいという思いがすごく強くなっていた。もう読むことはないんだ。そう思ってしまう。
「ラフィスとセルジュが虹を追いかけたのも、無理ないな」
「だろ?」
この本を読んだ子どもたちは、何人か俺たちと同じように虹を追いかけて、嘘のようなそんな話を信じて、何かを求めていたのかもしれない。
「なぁ、この本借りてってもいいか?」
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