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□A
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通りすがりに衛の姿を発見した。
背が高いので直ぐにわかった。紺色の控えめなコートを着ていた。きっとその下は何時もの服なんだろう、とも思った。
右手にはコンビニの袋が握られていた。小腹でも空いたのだろうか。手元の携帯を開く。デジタルの数値は、おやつ時を指していた。
声を掛けようか悩んで、止めた。少し観察してみようと思ったからだ。
衛はあたしに気付く様子も無く、人混みの中を淡々と歩いて行く。背中の微妙な丸みに冬を感じた。彼には寒い季節がよく似合うと前々から思っていた。きっと白が合うからだ。今度然り気無く褒めてあげよう。褒め言葉なのかは、不明だけれど。
ふと、衛が立ち止まった。
気付かれた訳では無かった。擦れ違った若い女性が呼び止めたのだ。
どうやら道を聞いているらしい。それにしては距離が近くないか?衛はそんな事を気にした風も無く(これだからアンタは!)地図と道を交互に指差しながら何か喋っている。
早くしなさい!っていうか道ぐらい交番で聞きなさいよ!
ようやく話が終わったようだ。女性が礼を言って、そそくさと歩いて行った。衛は優しく微笑みを浮かべて見送る。
「………はぁ、」
溜息を吐いてふと思う。
何をやっているんだあたしは。
(…疲れた)
衛の処に行って、珈琲でもご馳走になろう。
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