□C
1ページ/1ページ






振動は揺りかごの様に規則的にゆったりと遥を夢の中へと落としていく。
少し頭が下がって、また上がる。
遠くで車内のアナウンスが聴こえる。
頬に当たる暖かい熱は、きっと沈み始めた紅い夕陽のそれだろう。


「…大丈夫ですか、」


耳元でそっと衛が囁く。
透き通った心地好い声は、雑音の中でもはっきりと聴き取れた。


「ああ…ごめん…何だか眠くって…」


最近休みが無かった。がむしゃらに働いて、走って、眠ることすら忘れていた。


「…いいですよ、着いたら起こしますから」


こくり、と衛の肩に寄り掛かった。徐々に周りが静かになっていく。















うっすらと開けた視界の先は、先程とは違う暗闇だった。


「………あれ、」

「起きましたか?」


前から声がする。
脚が浮いている。


「…おんぶなんて何年振りかしら」


「そう、してもらえるものでは無いでしょう」


「そうかもね」


「……遥、目が覚めたなら歩いて下さい」


「………」


「遥………?」
















「―――あらあら…!ごめんなさいね衛くん……ほら、遥!」


三島家の玄関に明かり
が付いた。


「この子酔ってるの?」

「いえ、眠いだけかと…」


衛が階段を上る。
部屋の電気は消されたままだ。
手慣れた様にベッドの位置に遥を下ろしてシーツを掛けた。



「…疲れましたか」

「うん…」

「ゆっくりお休み下さい」

「ん………」



衛は彼女の額にキスをすると、優しく微笑み、そのまま部屋から出ていった。















―――がたん。



「…るか、遥」


覚醒した途端に、人々が移動する音が耳に入ってくる。


「着きましたよ、降りましょう」

「………」


遥は目を閉じ、意識をひっそりと隠した。

「起きません…か」


衛のため息がくすぐったい。
寝たふりをする。
そうすればほら、

さっき視た未来の様に







―――貴方が、キスをしてくれるでしょう?



吹き出すような空気音を立てて、


電車のドアが、閉まった。



《Thanks applause》

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ