□D
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「お前最近太ったんじゃないか?」


今日はこれから雨が降るんじゃないか?

とでも言うような、そんな雰囲気の羽生の一言に、遥は怒る事すら忘れて唖然とした。


「…信っじらんない………ああ、」


拍子抜けしてしまった。あまりにも羽生の顔も、そして今の自分の顔も間抜け過ぎて。


信じらんない
信じらんないわ









「…あたし最近太ったかしら」

「何ですか、来るなりいきなり」


忙しそうにパソコンの画面を睨む衛に遥は昼食の菓子パンを投げ付けた。

それは見事に彼の額にヒットする。


「………痛いですね」

「確かに暑いからってアイス食べ過ぎたかも。だらだらしてるし、近頃犯人だってろくに追いかけてないし」

「はあ、」

「っていうか、大体そんな事をボンボンに指摘されるって自体間違ってるのよね。なんか今頃になってムカついてきた、うん、」

「………」

「そもそもどうしてボンボンもアンタも平然と食べてそんなにガリガリなのかが信じられないわ。女って損よね。要らない脂肪ばっかり付い…」




衛は無言でガタンと立ち上がると、そのまま呆然と立っていた遥の腰を持ち上げて子どもを抱く様に担いだ。


「え、なに、ちょっと!」

バタバタ暴れる彼女を連れて、最高に蒸し暑い書庫へ。
最奥に構える馴染みの簡易ベッドへと、持っていた遥を半ば投げるようにシーツの上へと落とした。


「………」

「な…なによ、じろじろ見ないでよ」


「…そうですね。見た目にはさほど変化はありませんよ」

「そ、そう?」

「肉付きが良いことは女性ならば当たり前のことですから。抱き合ったり触れ合ったり、骨の感覚だけではなんだか悲しくなります」

「…は?」


つまり、と前置きをして、衛は彼女の頬を手で軽く引っ張った。

いひゃい、なにひょ、と声が出た。


「残念ながら、私は今締切間近なのです。ですから長い時間貴女の話に付き合うことは出来ませんし、少々荒っぽい方法でしか貴女のダイエットの手助けも、出来ないのです」



訳が分からないと言う遥を目の前に、衛はさも当然の如くさらりと、
着ていたワイシャツを脱ぎ始めた。


なに!なによ!


遥は顔を真っ赤にして怒鳴るが、逃げる術はもう無い。


「痩せるには、適度に汗をかくのが一番ですよ」


にっこりと微笑む衛。


窓から入り込む夏の日射しは、2人をさらに熱い空間へと導こうとしていた。





END.

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