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□A
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猪女こと、三島遥を見付けた。
彼女は何かを見ている様だった。道の真ん中で立ち止まっているため、通行人の邪魔になっていた。
その視線の先を俺も追ってみる。が、残念ながらビルがあるために、彼女が見ているであろうものを確認することは出来なかった。
彼女が俺に気付く様子は無い。じっとそれ(わからないのでそれと呼ぶ)から目を離さない。一度だけ左手に持っていた携帯電話を開いて、直ぐに閉じた。時間を確かめたのか。俺もつられてハンドルに乗せていた左手首に視線を落とす。午後の3時。動かない車の列に、うんざりした。
突然、彼女の表情が変わった。一瞬顔に“?”が浮かんだかと思うと、途端、怒りとも苛立ちとも不安とも似付かない顔になった。
それは暫く続いた。擦れ違う人々が、不思議そうに彼女を見ていく。何故か少しだけ嫌な気分になった。
…俺が。
信号機の色が変わる。俺はもたれていた体勢を立て直した。
彼女も歩き出す。ホッとしたような表情だ。今きっと腹が減ったと思っている。おそらく、思っている。
このまま帰ってしまうか、署に顔を出すか迷い。結局戻ることにした。
運が良ければ、彼女に会えるかもしれない。
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