その他

□月に捧ぐ唄
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「んっ…」

真夜中。
ティアは微かな物音に目を覚ました。

(誰か、外に出たのかしら?…でもこんな時間に?)

不思議に思い、軽く上着を羽織ると閉じられた扉をそっと押し開いた。
瞬間、真っ白な光りが視界を覆った。
眩しさに目をつむり、恐る恐るそっと目を開くと、そこには白く大きな満月が夜空に浮かび輝いていた。

「綺麗…」

思わず呟いた一言に気付いたのか、目の前で人影が動いた。

「ティア!」
「ルーク?」

そこには、地面に直接座り込んだルークが驚いた顔でこちらを見つめていた。

「どうしたんだよ、こんな時間に?」
「貴方こそ」
「やっ、俺は、別に」

問い返すとルークは慌てたように両手をぶんぶんと横に振った。

「…もしかして、眠れないの?」
「バッ!んなわけっ…」

暗に子供と言われたと思ったのだろう。聞いた瞬間、ルークは顔を真っ赤にして反論しかけるが直ぐにグッと言葉を飲み込んでそっぽを向いてしまった。

「………なんか、眠れなかったんだよ」

そっぽを向いたまま、小さく、辛うじてそう呟いたのが聞こえた。
昔なら罵声の一つや二つ簡単に言っていただろうに。
その様子が何だかに余計に幼く見えて、ティアは気付かれないようにそっと微笑んだ。

「…ティアは?」
「私も、眠れなくて」

ルークの隣に同じように腰を下ろしてそう言えば、ルークはその言葉に安心したように「そっか」と言って笑った。



「月、綺麗ね…」
「あぁ」

肩が触れ合う距離で見上げる先には、月が温かな光りを放ち辺りを優しく照らしていた。

「初めてティアと会った時も満月だったな」
「そう、だったかしら?」
「うん。…月ってこんなにデカイんだなぁって、すげぇびっくりした」

子供のように目を輝かせながら月を見上げるルークに、ティアも昔に思いを馳せる。
全てが、もう何年も前のことのように感じられた。

「まさかあの時はティアとこんな風に静かに月を見る日が来るなんて思わなかったなぁ」
「それは私も同じよ」

まさかあの時はルークとこんな風に旅をするなんて思わなかった。
二人だけでいることが、こんなにも心地良く感じる日が来るなんて。

「ティア…」

静かに、名前を呼ばれて。
隣を見れば優しい笑顔がこちらを見つめていた。
トクンッと、小さく心臓が跳ねた。

「歌、歌ってよ」
「歌?」
「うん。いつも歌ってるやつ」
「私、…下手よ」
「ティアは上手だって。な、お願い!」

その人懐こい笑みで言われたら、断ることなんて出来る筈もない。
ティアは軽く溜息を付くと、瞳を閉じ、ゆっくりと口を開いた。

紡ぎ出された音は静かに流れ、風と共に辺りを震わせていく。
透き通るようなその美しい歌声に、ルークは目を閉じて聴き入った。


旋律は、やがて最後に長く響いて夜の闇に溶けていった。


「…これで、いい?」
「うん。…やっぱり綺麗だった」

気恥ずかしさに尋ねれば、ルークは満足そうに笑った。
心底嬉しそうなその笑顔に、胸が温かいもので満たされていくようで。
ティアは自然と、ルークにつられるように微笑んでいた。





貴方と見る月は、あの時と変わらずに

満天の空の下輝いている

どうか

あなたと共にあるこの時間も

何時までも変わらずにありますように…



願いは互いの胸の内に。
微笑み合う二人を、月は優しく照らし続けていた。


END.





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yfuちゃんへ
誕生日にささやかな想いを込めて


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