人魚姫|原作END

□私の言葉で伝えたい
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式の準備に追われる人達

皆、王子の結婚を喜んで居たけれど…私だけ素直に喜べない

それは、私にとって

今日が最後の日だから…?


残りの時間を少しでも王子と過ごしたくて、探していたら女中さん達に捕まってしまった

沢山のドレスが用意されていて次から次に着替えさせられていく

やっと終わり王子の部屋へ着いた時には、式が始まるまであと僅か

私を見た王子が少し驚いたような顔をしたけれど、すぐに苦笑に変わった

女中さん達に捕まっていた事を察してくれたみたい

彼の向かいに座る

例え短い時間でも、最後の刻を迎えるまでは王子と居たい

急に彼が右手を取って、何をするのかと思って見ていたら…一瞬、手の甲に触れた熱

左手で自分の頬に触れる
身体中の熱が顔に集まったみたい

「このまま、」

彼が紡ぐ言葉に意識していたら、手を引かれて、抱きしめられる身体

合わせられた額、目前にある王子の顔

恥ずかしくて、目を合わせられなくて…彼の首筋に顔を埋める
赤くなった顔を、見られないように

不意に、私を抱き締める王子の腕に力が込められた

触れている部分から、私の熱が彼に伝わってしまいそう

「このまま…俺の傍に」

真っ直ぐに伝える言葉

でも、それは

"私"に、告げられた言葉?

身体を離し、彼の目を見据え

「     」

伝えたくて、けれど
声が出ないのがもどかしい

彼の頬に触れて、額を合わせる

このまま熱と一緒に、想いも伝わってしまえばいいのに

祈るように瞳を閉じた

まだ熱の残る私の頬に添えられた彼の手

確めるように瞳を開いて、少しずつ近付く彼を見つめる

「受け入れてくれるなら目を閉じてくれないか?」
駄目なら突き飛ばして構わないから、と

そう言って瞳を覗き込む彼の言っている意味が分からないけど、私は彼の言葉の通り瞳を閉じた

彼が小さく息を吐く

触れる程近くに感じる彼の熱は

「王子!式の用意が整いましたよ!」

彼を呼びに来た家臣の方の声で離れてゆく

もう、式が始まる…

王子の返事を聞き、遠ざかる足音


「行かないで」と心が騒ぐ

声が出なくて良かった、と思う


私の心が、彼に聞こえてしまうから


私は今、どんな表情をしているの…?

彼と目が合い微笑む、いつものように…


顔を見られないように彼の数歩前を歩く

家臣や女中の人達が王子に掛ける祝福の言葉が胸を締めた



彼に言葉を告げられたのはどっちの私?

私は答えは合っていたの?


貴方から訊きたい

私の声と言葉で

今、私の抱いている想いは何?


色々な想いがぐるぐると渦を巻いて、貴方に伝えたい想いが隠されてしまう

貴方に…想いを伝える言葉が分からない





20090512

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