人魚姫|原作END

□響いた吐息
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…イィー――

扉を開く音

「………」

微かに響いた小さな音

「………」

「(こんな時間に…誰だ?)」

静寂の中、耳に届くのは軽い足音のみ

ベッドの真横で止まる音

代わりに聞こえた布が擦れる音と

「           」

意志を持った呼吸音

「(フェイ、か…)」

相手が誰か認識し、開こうとした瞼を体温の低い手の平に塞がれ

「   」

頬を掠めた毛先

耳元に掛かる吐息

手の平から伝わる低い温度

「     」

僅かに乱れた呼吸から、彼女が言葉を紡いだ事だけは分かった

声なき言葉

部屋に入る時よりは大きく、それでも極力静かに離れ行く足音は、一旦止まり

「………」

…ッン―――

そっと閉められた扉の音の後、聞こえなくなった彼女の音

身体を起こす

視線の先にある扉

「(何をしに来たんだ…?)」

扉の向こう側から届かない音

もうすぐ、日が変わる時刻

扉の向こうに消えた音

「…フェイ…?」

ひどく嫌な予感がする

彼女は部屋に戻ったのだと自分に言い聞かせても、こんな時間に現れた彼女の姿を追うように動き出す身体


フェイ、お前は
何を伝えようとしていた…!?


このまま"彼女"のように会えなくなって仕舞うのではないか…?

次第に焦り出す心

当てもなく部屋を飛び出すと

「!…歌、か?」

耳に届いた懐かしい歌

"彼女"が歌っていたのと同じ歌


「…こっち、か」

歌の聴こえる方向

俺と彼女しか知らない砂浜


静まる城内に響く足音に急く心



「(フェイ、お前は……!!)」



歌は終わり、代わりに遠く響くような波音が聞こえてくる


心は焦り、急ぐ身体、白い砂浜の先

「………」

ゆっくりと振り向いたお前の
月明かりに照らされた泣き出しそうな表情

「フェイ、よかった…」

ただの思い過ごしだと安堵し、一歩縮まった距離を


「………、     」


首を横に振り、叫ぶように口を開いて


「フェイッ!?」



海に落ちた、お前が広げる





20090910

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