人魚姫|未来END
□たこ増量中
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心地よい風、ゆっくりと流れる雲
それから
「Laー…」
それらに静かに溶け込む、透明な歌声
「上手くなったわね」
「毎日、歌っていましたから」
「そうね。…知っているわ」
ずっと聴いていたから
王子を想って、私を想って、貴女は祈るように歌い続けていたわね
優しい声だった
だけど、
聴いていると、哀しくなったのよ
…貴方が、離れて行くのが
でも、今は
「それにしても、どうしたんですか?急に『歌って欲しい』だなんて」
「あら、嫌だった?」
貴女の歌声に、暖かく満たされていくのよ
いつまでも、聴いていたいと思うの
「嫌だなんて、そんな…ただ、急だったから何かあったのかな、って」
「あら、何もないわよ」
ただ、貴女の歌が聴きたくなっただけ
「…本当ですか?」
「疑うの?」
ぷうっと頬を膨らませて、小さな子供のような拗ねた表情まで作って
いつの間にか、貴女の私に対する信頼は下がっていたのかしら
「疑う…というか、アースさんが私に『歌って欲しい』と言うときは、いつも疲れている時なのに『何でもない』って言うから
…姉さんも、そうなのかなって…」
「フェイ…」
本当に何もないのだけれど
「私には大したことは出来ません。でも、少しでも役に立ちたいんです
なのに…やっぱり、お二人から見たら…私は頼りないんですか?」
「そんなことないわよ」
頼りない、という訳ではないけれど
「本当、ですか?でも、アースさんもそう言っていても、家臣さんには『疲れた』って言っているんですよ
私だって、お話聞いてあげられるのに…」
しゅんと寂しそうに声を落とす
本当に、腹立たしいくらい王子の事を真剣に想っているのね
「そんなに気にする必要はないわよ?」
きっと王子は、人の世界の勉強を始めたばかりの貴女に、気を使っているだけ
いえ、そうに決まっているわ
「でもっ…!昨日も、『癒されるなぁ』って言いながら、私の事をぎゅ〜って抱きしめていたんです!!
それなのに、『疲れているんですか?』って聞くと『大丈夫だ』って!」
「それは本当に大丈夫なのよ」
そうでなければ
毎日毎日、貴女に甘えたりしないでしょう
毎日毎日、貴女の口から王子の惚気話ばかり聞くこともないでしょう
「ぎゅ〜ってされるのは、暖かくて、すごく嬉しいです。でも、アースさんに無理をして欲しくなくて…私は、どうすれば」
あら、まだ王子の惚気話は続いていたのね
そんな心配なんかしてないで、貴女の想いに正直に生きたらいいのに
「姉さんはどう思いますか?」
「そうね…」
思ったままを伝えてもいいけれど
「…とりあえず、(毎日聞いている王子の惚気話のせいで)耳にたこが出来そう」
「………たこ?」
「えぇ、たこよ」
きょとんと、いくつもの疑問符を浮かべる貴女には悪いのだけれど
「今度…王子を軽く沈めておこうかしら」
日頃から貴女に惚気られ、充分過ぎるほどの愛を注がれている事に対する嫉妬も込めて
「たこ…で、何をすればいいんでしょう」
でも、それはまたの機会にして
「あ、踊り食いですね!」
「フェイ、落ち着きなさい」
何を仕出かすか分からないこの子を
「たこって今の時期も捕れるんですか?」
「…自分で捕まえる気なの?」
止めるべきかしらね
「はい!頑張りますっ!」
「笑顔で言う言葉じゃないわ」
否、何をしてでも止めるべきね
20100719