人魚姫|未来END

□人魚の泪
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引いては返し、また引いて…

波の音が奏でる静かな響きだけが聴こえる、夜明けにはまだ時間のある海岸

濡れた身体をそのままに、ただ一人…

海に向かい佇む


「…フェイ…ッ」

自分の声なのかと疑うくらい、弱く掠れた声で呼ぶ

傍で優しく微笑んでいたお前に、もう…触れることも出来ない

失ったのか

目の前で泡となり消えていった

俺は彼女を愛してると言いながら

ずっと、傍に居たことにも気が付かなかった

「…すまない」

深い哀しみに囚われた彼女

最愛の妹を…俺が、奪ってしまった

泣いていた

俺を責めることもなく

ただ、静かに流した真珠の涙


弱く月明かりを反射する泪だけを残し、海へと消えた2人

「すまない、フェイ…カバネ…」

伸ばした指先は…もう、届かない



「王子…?そんな所でなにを?」

形だけの式を行い、妻となった女

俺が居なくなった事に気づいて探しに来たんだろう

「家臣の方々が心配していましたよ」

伸ばされた腕、白く細い指

だが、"彼女"ではない


軽く払いのけた女の手

表情を変えずに見つめる瞳


「…必要ないんだ、もう」


彼女は、居ないのだから





20090603

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