人魚姫|未来END

□届いた声に
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『ッ…――――』

ただ、暗闇しかないこの世界に微かに聴こえた小さな声

「………?」

私は、この声を知っている

懐かしいとさえ感じる

とても…愛しい声

「…王子…」

また溢れ出す涙は

この世界に溶けるように消えていく

『フェイ…―――』

どこから聴こえてくるの

どうして聴こえてくるの


もう、貴方の姿を見ることすら叶わないのに


どうして…?



彼の声が

"私"の名前を呼ぶ

『フェイ…お前は、どこにいるんだ』

「…王子、私は」

私は…―――


「届かない」と分かっていても

「伝えたい」と心が騒いでいる

「会いたい」と身体が動き出す


「王子、貴方の…」

―――…傍に居たい


暗いだけのこの場所が、微かに揺らぐ

『…フェイ』

「王子…」

応える声を持っているのに

今なら、彼の言葉に答えられるのに


どうして、届かないの…?


波紋を描くように、温度のない世界が少しづつ揺らいでゆく

なにが起きているのか分からないけれど

「…好き。好きです、王子…好き」

この声は届かなくても

想いだけは伝わるように

何度も、何度でも繰り返す

「好きです…好き、王子が」

『フェイ………?』

彼の声はいつまで届くのだろう

貴方の声を聴いていたい


『…そこに……居るのか…?』

「王子…?」

私に、気付いた…?

世界が波紋を描きながら揺らぎだす

『フェイ。聴こえているのか?そこに、居るんだな…?』

「!?王子…私は、」

姿は見えないけれど

彼の声を近くに感じる


すぐ、傍に…

『お前に伝えたかった事があるんだ』

王子の声に反応するように大きく広がってゆく波紋の揺らぎ

このまま、この世界は波紋の中に消えてしまうのかもしれない

それでも

最後まで、王子の声を聴いていたい

『フェイ』

ふっ…と、今の私は笑っているのかもしれない

そんなことを思いながら、彼の声に耳を澄ませる

『愛してる』

他の誰でもない"私"に告げられた言葉

あの時のように
顔に熱が集まってくるのを感じる

「王子。…私、も…貴方を」
愛しています、そう言葉を続ける前に溢れだした光の洪水

「な、に…?」

波紋ひとつひとつが目映い煌めきを放ち、あまりの眩しさに目を閉じた





長いような短いような時間

耳に届く波の音にそっと目を開く

見えたのは、光の洪水とは違う太陽の眩しさと


海を見つめる王子の姿



「(…どうして…?)」

ここは王子しか知らない砂浜

私は、あの日の姿のまま


この場所にいる





20090710

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